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天文学者はなぜ電波を発信しないのだろう?
新しい世紀のキーワードの一つは“宇宙”だそうである。多分、月とか火星の資源探索や宇宙空間での人間の居住が主な関心事となる話であろう。しかし私にとって宇宙と言えば、地球外生物の存在確認の方がはるかに魅力的なテーマである。21世紀中に我々はその存在を確認できるようになるのであろうか。
世の天文学者たちは、地球外生物と交信しようと長年努力を重ねてきた。ピタゴラスの定理を証明する巨大な図(*1)を地上に描いて、地球にも知的生物がいることを暗に示そうとした時代もあった(実際にやったかどうかは知らぬ)。電波を発信し続けて、地球外の知的生物がそれに気づいて応答してくれるのをひたすら待ち続けた時代もあった。
【注】(*1)一つの直角三角形とその三辺上にある三つの正方形が組み合わさった例の図である。
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しかし太陽系周辺には高度な知能を持った生物はいないらしいことが分かると、彼らは方針を変えねばならなくなった。それは当然のことであろう。地球から数千光年あるいは数万光年の距離の中に知的生物がいないとしたら、その先にいる知的生物からたとえ反応が返ってきたとしても、それは数千年あるいは数万年後のことになるからである。天文学者たちにとっては、苦労して研究予算を獲得しても何ら研究成果を上司や学会に報告できないことになる。これは学者としては致命的であろう。
その結果、彼らは電波を発信するのをやめ、ひたすら地球外生物からの電波を受信する立場に方針変更したのである。つまり、ひたすら黙って聞き耳を立てる体勢をとったのだ。私は、この判断は妥当なものであろうと思う。どんな科学者だって成果が上がらないことが明白な分野にいつまでも関わっている訳にはいかないからである。
しかし私はいささか疑問に思う。もしこれが本当に“妥当な判断”であるとしたら、地球外の知的生物にとっても同じように“妥当な判断”となるのではなかろうか。彼ら(もちろん地球外生物のことですぞ)に“予算獲得”とか“研究成果”とか、はたまた“上司への報告”とかが必要なのか、あるいはそもそも“上司”などという概念が存在するのかどうか、私にはまるで分からない。しかし地球人の場合と同じように、この“聞き耳を立てた方が効果的”とする判断は彼らにとっても妥当な判断となるように思われるのである。
私は宇宙に存在する知的生物(地球人を含む(*2))が、漆黒の宇宙空間に向かって全員ただ押し黙って聞き耳を立てている図を想像し、ただただ不思議でならないのである。インターネットの世界で考えてみるがよい。全員がただ聞き耳を立てているだけだったら(つまり全員が read only だったら)、そもそも交信など成り立たないではないか。
【注】(*2)地球人が知的かどうか、これは議論が分かれるところであろう。
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天文学者はなぜ受信ばかりして自ら電波を発信しようとしないのだろう。あぁ、今夜も眠れそうにない。■
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