(22)
鬼と福はどちらが先なのだろう?
テレビの前で新聞を読んでいたら、テレビから「‥‥ということで、現在では鬼が先になっている訳です。‥‥」という司会者の声が聞こえてきた。節分の豆まきをテーマにしたクイズ番組をやっているところである。ふ〜ん、鬼が先なのか‥‥。 何? 鬼が先だ? 豆を撒くときの掛け声は、確か「福は内、鬼は外」の順ではなかったか。テレビではこれを「鬼は外、福は内」だと言っているのである。
これは由々しき問題である。私は子供の頃から「福は内、鬼は外」と教えられてきた。つまり、家の中に向かって「福は内! 福は内!」と叫びながら二回程盛大に豆を撒く。次に間を置かずに外に向かって「鬼は外!」と叫びながら、今度は心持少なめに(*)一回だけ撒き、すかさず戸を閉めるのである。この方法によれば“福”の神が家の中に入ってくるための時間的猶予が十分に与えられる。もちろん同時に鬼も入ってくるが、次の一声でその鬼を外に追い出しすばやく戸を閉めてしまえば“福”の神だけを十分に家の中に取り込めるという訳である。
【注】(*)少なめにすることに特段の意味はない。単にケチなだけである。
|
これが逆であるということは、まず外に向かって「鬼は外! 鬼は外!」と叫びつつ豆を撒き、ついで内に向かって「福は内!」と一回叫ぶことになる。これでは十分に福を取り込めない怖れがあるのではなかろうか。悠然と構えている(有り体に言えば、のろまな)福の神が家の中に入りそびれることになるかもしれない。
妻に聞いてみると、妻も鬼が先ではないかという。そうなのか、知らなかった、知らなかった。道理で我が家に“福”が滅多にやって来ないのはこれが原因だったのであろう。それでは今年からは「鬼は外、福は内」の順でやることにしよう。そうすれば我が家にもきっと福が訪れるであろう。
そう決心した私は、早速「鬼は外、福は内」で今年の豆撒きを終えたのであった。しかし「鬼は外、福は内」ではどうも調子が出ない。豆を撒く前に最初は鬼だったか福だったかと一瞬考えてしまうのである。これでは福の神も入るのをためらうのではなかろうか。
広辞苑で調べてみると「鬼は外、福は内」という表現も「福は内、鬼は外」という表現もどちらも存在するようである。結局どちらが正しいのか分からない。
節分で豆を撒くときの掛け声は、「鬼は外、福は内」が正しいのか「福は内、鬼は外」が正しいのか。一体どちらなのであろう。あぁ、今夜も眠れそうにない。■
|