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“LINE”の発音とアクセント
メールアプリの LINE が記録的な早さで普及しているらしい。しかも海外でも広く利用されていて、海外利用者の数が全体の80%にも達するという。
LINE は“ら(')いん”ではなく“らい(-)ん”と発音する(*)のだそうである。つまり、2文字目以降を平板に発音する。私は寡聞にして詳しくは知らないのだが、LINE の製造元が決めたことではないのではないか。普通アプリ製品は、その名前の発音の仕方まで規定するとは思えないからである。日本での初期の利用者(多分若者達であろう)が慣用的に用いた発音ではないかと思う。
【注】(*)ここで、
(')は、直前の文字のみにアクセントを付ける。
(-)は、直前の文字以降終りまでアクセントを付ける。
若者言葉の発音は、2文字目以降にアクセントを移動させる例が多い。正確には“アクセントの平板化”と言うらしい。たとえば、
彼氏(かれ(-)し)、クラブ(くら(-)ぶ)・・・
などが代表的なものである。
市川海老蔵さんが傷害事件に巻き込まれた場所は クラブ(くら(-)ぶ)であり、倶楽部(く(')らぶ)とは異なる。アクセントは2文字目以降になり平板に発音する。NHKのアナウンサーはこれを正確に区別して発音しているのだそうである。ご苦労なことだ。
箸(は(')し)、端(はし('))、橋(は(-)し)のような、同音異義語に新たな分野が加わったことになる。
ところで私は思うのだが、若者言葉に現れるアクセントの平板化は、実は“橋”の発音アクセントと共通のものではないか。つまりアクセントの平板化と言うよりも、アクセントを一切無視しているのではないかと思う。
その発音をよく聞いてみると、
彼氏(かれ(-)し)は、彼氏(か(-)れし)
クラブ(くら(-)ぶ)は、クラブ(く(-)らぶ)
と発音しているように私には聞こえるのである。
つまり、若者言葉における発音・アクセントの変化は“アクセントの平板化”ではなく“アクセントの無視”ではないかと思う。
最後に素朴な疑問を一つ。
LINE の利用者の80%が海外の人だとすると、彼らは LINE をどう発音しているのだろう。英語が主言語ならば「ラ(')イン」と発音しているのではあるまいか。
もし“ら(-)いん”と発音しているのが日本人だけだとすれば、将来の日本人は英語の“直線”を意味する“line”も同じように“ら(-)いん”と発音するようになってしまうのではなかろうか。
日本人は“r”と“l”の発音を区別するのが苦手だと言われているが「アクセントまでおかしい」と言われるようになってしまうのかもしれない。心配なことである。
あぁ、今夜も眠れそうにない。 ■
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