最近腹の立つこと
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JR駅務員とのやりとり


 近頃腹の立つことが多い。
 家族の者は、私めが最近特に気が短くなり怒りっぽくなったと言う。脳の老化にともない気が短くなるのはよく知られた一般的傾向であるが、これはそういうたぐいの問題ではないのだ。
 脳が柔らかいと自負する私めは(賢明にも)家人のそのような指摘にあえて異議を唱えたりはしない。同意した風を装ってはいるが内心では少しもそうは思っていない。最近の世の中、腹の立つことが多すぎるのである。

 最近こんなことがあった。
 私めは週3回、大学へ講義のために通っているのだが、その内1回は通いなれた都心のキャンパスではなく埼玉県下にある学部のキャンパスへ行かなければならない。片道2時間強も掛かるので老体の身には結構堪える(腹が立つのはもちろんこのことではない)。自宅のある川崎市のT駅(JR線)から乗車し、私鉄を乗り継いで大学のあるK駅(JR線)まで電車で通っているわけである。

 週1回くらいだと定期券を買うのは無駄なので毎回切符を買って乗車している。片道の運賃は、まずJRで150円、次に私鉄で240円、再びJRで820円となり片道の合計は1210円ということになる。しかしJRの規則では、間に私鉄が入っていても途中下車しない限り両端のJRの運賃計算では通算してくれることになっている。そこで、出発駅(T駅)で400円を支払いJRと私鉄の共通切符を買うことにしている(残念ながら目的地のK駅までは売ってくれないのである)。

 この切符で目的地のK駅まで行きそこで精算してもらうことになる。この際に自動精算機では対処してもらえないので、窓口へ行って駅務員に精算をお願いすることになる(腹が立つのはこれでもない)。駅務員も慣れていないので精算には結構時間が掛かるのだが(それで腹を立てている訳でもない)、安くなるのだからと我慢をする。そして駅務員の請求通りにずっと740円を支払っていたのである。これで合計1140円となり、70円の節約になると考えていたのである。

 しかし駅務員の慣れない計算に毎回付き合わされるのはかなわないので、その内に自分の方から「740円」と言って支払うようになった。ところがある時、年配の駅務員が「実は720円なんです」と言うではないか。あれまあ、随分と長い間損をしていたことになると思ったが、20円か、「まっ、いっか」とそのまま我慢することにした(腹が立つのはこれでもない)。

 夏休みなどの長期の休みが入ると運賃のことなど忘れてしまうから、次に精算するときにもまた740円を請求され、言われるままに支払うことになる。内心ではあれそうだったっけ? もっと安かったような気もするが‥‥とあやふやになり、再び740円に戻ってしまうのであった。なんともはや。
 そして再び「実は720円なんです」と言われ、はっとして正しい運賃を思い出すという体たらく。

 こんないい加減なことをしていてはいけない。運賃くらいしっかりと自分の頭に入れておこうと決心した私は、次からは「720円!」と断固とした口調で言って駅務員に精算してもらうことにしたのであった。

 ところが、ところが、駅務員に「720円!」と宣言すること2回目で、再び年配の駅務員が登場し私に申し訳なさそうに言うのである。「実は詳しく調べたら680円なんです」
 余りのことに、普段はおとなしい私めもさすがに頭に来て「もう6年間も高い運賃を払い続けていたんですよ」と文句の一つも言ってやったのであった。

 しかしその後で私めは考えた。文句一つで終わらせないでもっと怒るべきではなかったか。行列のできる法律相談所に持ち込んで「訴えてやる!」と言うべきではなかったか。今まで一体どの位損しているのだろう。通算すると6年半だ。前期と後期で年24回、‥‥やめよう、やめよう。こんなはした金で騒いでいては人間がすたる。それにしても‥‥などといつまでもうじうじと考えているのであった。しかし腹が立つなあ。

 更に腹が立つのは、帰りの運賃のことである。同じ経路なら往復とも同じ運賃になるべきなのだが、そうはならないから腹が立つ。
 K駅からの帰路はJRの運賃通算をしてもらえず、820円(JR)、240円(私鉄)、150円(JR)となり、復路の合計は1210円で130円も高くなってしまうのである。原因は、K駅ではJRと私鉄の共通切符を発行してくれないからである。これがないと下車駅で、私が私鉄経由で来たという証明ができず通算による精算がしてもらえないのである。
 K駅で、自動発券機による発券ができないのなら分かるが、駅務員がひかえている窓口で頼んでも売ってくれないのである。私には駅務員が怠けているとしか思えない。往復で運賃が違うのと合せて、何とも納得がいかないことである。本当に腹が立つ。

 改札業務の自動化も結構であるが、それにともない駅務員の運賃計算能力がお粗末になっているのではないか。機械まかせで発券業務のサービスもおろそかになっているのではないか。利用者の側からは言いたいことが山程もある。駅務員にはもっと機械にはできないことをやってもらいたいのだが、機械よりも劣った作業しかできないのは何としたことであろう。あぁ腹が立つ。

 今日も若い駅務員に740円を請求された。私が「680円でしょう」と言い返すと「いや、740円ですよ」と言い張る。そこで再び「680円です!」と断固として口調で宣言したものだから駅務員の方がびっくりしていたっけ。当分この言い合いは続きそうである。あぁ腹が立つ、腹が立つ。■