最近腹の立つこと
(2)

コンピュータの老化現象


 近頃腹の立つことが多い。
 私が毎日使用しているコンピュータはシステムの立ち上げにものすごく時間が掛かる。数年前購入して使い始めた当座はこんなにも時間は掛からなかったはずだ。つまり使い込んでいるうちにノロマで愚鈍なマシンへと変身してしまったのである。毎朝コンピュータに電源を入れてから使用可能な状態になるまで、いろいろと他のことをして時間をつぶさねばならず、時間を有効に使えていないという思いが益々自分をいらだたせる。

 マシンがこのように“へたって”しまった原因は、言ってみれば筋肉疲労(あるいは金属疲労というべきか?)を起こして疲労物質が体内に蓄積された結果であるように見える。いや、これは老化現象と表現した方が適切かもしれない。時間の経過とともにコレステロールのような老化物質が体内に溜まっていって、徐々に使い物にならなくなってしまったのだ。そうなると普通は誰でも、もはやこのマシンは寿命が尽きたとみなし新しいマシンに乗り替えることを考えるようになる。しかし以前コンピュータ開発に携わってきた私めとしては、意地でもそのような安易な対応策は取りたくない。特に自分の愛用してきたマシンに対しては。

 周知のように時間の経過とともにマシンの性能が低下していくのは、ハードウェアの問題ではなくそこに搭載されるソフトウェアに主たる原因がある。
 コンピュータを使い続けているうちには、誰でもいろいろなソフトウェアを試用してみたくなるものだ。あるいは必要に迫られてということもあろう。かくして色々なアプリケーションプログラムが後から追加、搭載されることになる。試してみただけで最終的には採用しないことになったとしても、一度でもプログラムがインストールされれば何らかの影響をマシン上に残すことになるであろう。プラグインされるプログラムも数知れない。一般にアプリケーション開発者は、当然のことながら自分の作ったプログラムが一番使いやすくなるよう初期設定をしたがるものだ。その結果たとえそのプログラムが常時使われないものであったとしても、毎日のシステム立ち上げ時にはプログラムの一部が常時組み込まれて動作することになりがちである。まったく困ったことだ。

 また、ウェブ上を徘徊(私はあまりやらない)していると何か良からぬものを引きずってきて自分のマシン上に設定されてしまうこともある。たとえば“Web Bug”などと呼ばれるものである。“Cookie”も油断がならない。特定のウェッブサイトに強制的にリンクさせようとするひどいものもある。あれやこれやが重なって、マシンは日々使えば使う程老化を重ねていくことになる(そうです。使わないのが一番なんです)。

 こういった老化を引き起こす阻害物質を発見して除去してくれるプログラムが世の中には存在する。私はもちろんそれを活用しているのだが、そのプログラム自身にも阻害物質が付着している可能性があるから、私は2種類の同類プログラムを使って互いに除去し合う方法を取っている。しかしあまり目に見えた効果は期待できないようである。

 それにしても最近の立ち上げの遅さは気になって仕方がない。実は白状をすると、以前レジストリをちょっといじったことがあり、その際に削除してはならないものを削除してしまったらしいのである。そのためか、毎回シャットダウン時に奇妙なエラーメッセージが表示されるようになってしまった。自分のミスも重なっているらしいのである。
 この際、システムを入れ換えて過去のしがらみを一掃してしまいたいという想いが日ごとにつのってきている。しかしシステムの入れ換えは結構エネルギーを要する力仕事なのでなかなか簡単には踏み切れない。

 そうこうしている内に、ある日事件は起こったのである。
 ある朝、いつものようにコンピュータの電源を入れるとシステムが立ち上がらない。何度も立ち上げ直してみても状況は一向に変わらなかった。かなり深刻な状態のようだ。日頃からシステムクリーンアップを実施したいと思っていた私めは、このとき「しめた絶好の機会が訪れた」と思ったかというと、決してそうではなかった。このような状況下でやるべきことは十分心得ているつもりではあったが、大いにうろたえたというのが本当のところである。どうしよう。

 我が家には常時複数のコンピュータが動作しているが、Windows-98(以下、Win98と書く)マシンとWindows-XP(以下、WinXPと書く)マシンとが混在している。Win98マシンではシステムが立ち上がらなくなる経験を何度もしており自ら修復してきた。言ってみれば経験豊富なのだ。しかしWinXPマシンでは初めての経験であった。WinXPはさすがに安全対策が行き届いていて(もちろんWin98と較べればの話だが)滅多なことではシステムが破壊されることはない。もちろんシステムが固まってしまう事故は何度かあったが、今までは立ち上げ直せば必ず修復できたのである。しかし今度ばかりはそうはいかなかった。

 こういう際に取るべき手順としては、コンピュータに接続されている周辺機器を(マウスさえも)すべて取り外してセーフモードで立ち上げてみることである。しかし今回はそれを何度やってもうまくいかない。スタート直後にエラーメッセージらしきものが表示された青色のスクリーンが一瞬見え、すぐ再起動に戻ってしまうのである。何度やっても同じであった。困った。

 そこで、かねてフロッピーに保存してあったWin98用の起動ディスクを使って立ち上げてみると、うまく立ち上がりc:ドライブのハードディスクにアクセスすることができた。幸運にもハードディスクは壊れていないようである。
 昔の会社の仕事仲間であるS君にメールで助けを求め、いろいろと対応策を教えてもらうことにした。こういうときインターネット接続できるマシンが複数台あるとメールが使えるので本当に助かる。しかし彼の結論は、レジストリが壊れている可能性がありハードディスクを初期化してシステムを再インストールするしかなかろうというものであった。残念。

 こういう事態が起こることを前々から予測していた私は、ハードディスクの内容を外付け大容量ハードディスクに定期的に保存していたので、データが失われるという心配はなかった。実は前日にその保存作業を実施したばかりだったのである。保存後の変更分(半日分)だけが失われる。それも、Win98用の起動ディスクで立ち上げたときにc:ドライブから保存できたので何ら問題はない。いよいよクリーンアップ作業に踏み切ろうと私は決心したのであった。

 ところで、問題のマシンは Windows-Me(以下、WinMeと書く)マシンとして購入し、その後WinXPにアップグレードしたものなのである(随分と古い)。したがってWinXPのシステムディスクではなくアップグレード版のディスクしか手元にない。まず、手順としては WinMe版でシステムを回復し、その後WinXP版にアップグレードする手順を踏むしかないように思われた。ところがWinMeのリカバリーCDでシステムを回復させようとすると、どういう訳かテスト領域にあるデータが読めないというメッセージが出て回復作業が中断されてしまう。いよいよ取る手段がなくなってきた。

 再びS君にメールで助言を求めると良いことを教えてくれた。アップグレード版CDであっても、実はイニシャルインストールができると言うのである。アップグレード版CDでCDブートを行えばよいのだそうである。知らなかった、知らなかった。
 ただし正当なアップグレードユーザーであることを確認するためなのであろう、途中でWindowsのセットアップCDの挿入を求められる。これはWin98版のセットアップCDで何とか乗り切ることができた。めでたし、めでたし。

 かくして我が愛用のマシンは再び復活をはたしたのであった。
 私は今まで、自分が私的に使ってきたコンピュータ(http://home.catv.ne.jp/ff/knuhs/mycomputer/mycomindex.htm 参照)が、壊れて使えなくなったということが一度もない(もちろん東芝製のマシンに限った話ではあるが)。大抵は性能的に不満足になり、まだ使える状態でお蔵入りとしてきたのである。今回もあやういところでこの幸運を維持することができた。よかった、よかった。

 ところで復活はしたけれど、もとの使用環境を取り戻すにはまだまだしなければならないことが沢山ある。参考までに、以下に私がやったことを列挙してみよう。

 まず、Windows Update を用いてシステムを最新の状態にしなければならない。そのためにはインターネット接続が必要であるから、最初に
(1)無線LANのドライバのインストールを行う。
 インターネットにつながったら Windows Update を行うのだが、その前に
(2)アップデートモジュール自体のアップデートを行う必要がある。
 その後で
(3)実際のアップデート作業を行う。
 これを、アップデート項目がなくなるまで根気よく続ける。アップデート項目はかなりの数(この時点で43個)にのぼるので予想以上に大変な作業となる。一度のアップデートでは済まなくて途中で何度も再起動を要求される。途中でメモリ不足が原因のアクセス違反が発生したりして自動的にシャットダウンされてしまう異常事態も何回かあったが、それにもめげずにアップデートを要求し続けて、ようやくこの難関を突破することに成功し最新の状態にもっていくことができた。
 このあたりで頃合を見て、
(4)Windowsのユーザー登録を行う。
 これをやらないとマシンが何時までも納得してくれない。続いて
(5)Office-XP のインストール。
(6)Office-XPの最新版へのアップデートを実施する。
 ついでに、
(7)Windows Media Playerの認証手続きも行っておく。
 これであらかたの対外的手続きは完了したことになる。

 この時点でシステムの立ち上げ時間を測定してみると実にスムーズである。マシンは若返ったように見える。いいぞ。

 この後でいよいよ自分固有の環境設定に入るのだが、私の場合その前にやっておくことがある。それは、
(8)c:\Program Files 以下にあるフォルダーのアイコンを特別なものに変更しておく。
 こうしておくと、これ以後に作られた新しいフォルダーとシステムが最初から持っていたフォルダーとの区別が容易につくからである。長く使っている内には誰が作ったフォルダーか分からず、削除してよいのか判断に迷うことがある。

 自分専用のソフトウェアはあらかた外付けの大容量HDDに保存されているから、それを取り込む作業に移る。それにはUSB接続でHDDを使うので、
(9)USB2.0インタフェースカードのドライバインストールを行う。
(10)外付けHDDのドライバインストールを行う。

 最初に使えるようにしなければならないプログラムはメーラーであるから(私はMS社のメーラーは使わないことにしている)それを使う前提として
(11)ウィルスチェックプログラムのインストールを行う。続いて、
(12)ウィルスチェックプログラムのユーザー(再)登録とウィルスパターンの最新版への更新を行う。

 ここでウィルスチェックプログラムをインストールすると途端にシステムのレスポンスが悪くなり、システム立ち上げ時間も長くなってしまうことを発見した。前々から予想していたことではあるがその格差に愕然とする。遅くなる原因の大半はこれなのかもしれない。次に、
(13)メールシステムの動作確認
 メールの送受信ができ、過去のメールが正しく整理・保管されていることを確認し、ほっと一息つく。
 この後は私が固有に使っている
(14)ソフトウェア群のインストール作業である。
 ざっと見ても30種類以上はある。ずいぶん沢山使っているものだ。まだまだ増えるであろう。これも老化の原因の一つなのであろうが。
 ソフトウェアによってはもう一度ユーザー登録をしなければならないものもある。
 このようにして私は以前の開発環境を何とか取り戻したのであった。くたびれた。

 数日間に渡るクリーンアップ作業の結果、立ち上げ時間は約3分の1にまで短縮された。苦労した甲斐があったと言えよう。しかしウィルスチェックプログラムの初期設定にものすごく時間を要していることが明らかとなったし、まだまだ満足はできない(その他にも疑わしいものが多々ある)。
 マシンが復旧してほっとすると同時に、私はまたまた以前の怒りを徐々に思い出してくるのであった。
 本当はウィルスチェックプログラムの責任ではなく、ウィルスが存在すること自体に根本的な問題があるのだ。あるいは、本当は個々のアプリケーションソフトのせいではなく、私の愛用するマシンが実は時代遅れの代物になってしまって最新のソフトウェアを動かすには力不足となってしまっているのかもしれない。その場合には、私にはもはや“メモリの増設”というカンフル剤を打つことしか手段が残されていない。あるいは買い替えか‥‥。
 それにしてもこの怒りをどこへ持っていったらよいのであろう。あぁ腹が立つ、腹が立つ。■