近頃腹の立つことが多い。
メールを受信するとウイルスメールや迷惑メール(スパムメール)ばかりが届く。しかも多量に! これが腹立たしくないと言う人がいたら是非お目にかかりたいくらいのものだ。
しかしウイルス(メール)の蔓延など今に始まったことではないから、こんなことにいちいち腹を立てていたら身がもたないぞと言う人もいるであろう。もっともな言い分である。しかしそうだとしたら、我々はウイルスに対してはもっと自然に、そして“さりげなく”対応すべきではなかろうか。
私も人並みにコンピュータ上にファイヤーウォールを構築し不正アクセスに対してはしっかりと防御をかためている。その上でウイルスチェックプログラムなるものを常時放し飼いにし、日々の監視もこれ怠らないようにしている(これが結構費用が掛かるのだ)。ところがこのウイルスチェックプログラムときたら、ウイルスを発見すると「ウイルスを捕捉・隔離しました」と大仰な表示とともに声高に騒ぎ立てるのを常としている。毎度、毎度、鬼の首でも取ったかのように大騒ぎをしてくれる。
我々はインフルエンザがはやる季節にはマスクで防御をするが、ウイルスが身の回りにうようよと飛び交って(?)いたからといってインフルエンザに罹らない限りいちいち大騒ぎはしないものだ。そういう季節なのだからこれは仕方のないことと考える。もしウイルスの蔓延を普通のことと思うなら、ウイルスを発見しても「まあ、よくあることさ」とさりげなく除去し、ただ黙していてくれればそれでよいのである。いたずらに騒ぎ立てるから愉快犯はいつまでもウイルス散布という行為に関心を持ち続けるのであろう。
ウイルスメールに対しては、私もいつの間にかこういった達観した心境になってしまったのだが迷惑メールに限ってはどうにも我慢がならない。私の場合、最近とみに迷惑メールの受信件数が多くなってきている。日に二十通程度はざらである。私が今腹を立てているのはむしろこの迷惑メールの方なのである。
メールのタイトルの頭に“未承諾広告※”(*1)という文字列を付けているのはむしろ良心的な方で、今やそんなルールなどお構いなしの無法地帯と化している。私はウェブ上にホームページを公開したり同窓会のホームページのページ管理者を務めたりしているので、そこに表示された私のアドレスが何らかの方法で集められ無法な送信者達の手に渡って利用されているらしいのである。たとえば家内のようにホームページを持たない人のアドレスにはまったく送られてこないからこれは確かであろう。しかし、まったく他人に公開していないはずのアドレス(*2)に対しても迷惑メールが送られてくることがあるからプロバイダから情報が漏れているという可能性もある。
【注】(*1)この拙文をメールで受け取った人は、この文字列のせいでこのメールが「迷惑メール」とみなされるかもしれません。その場合はご容赦。 |
【注】(*2)他人に公開しないアドレスなど、メール利用という観点からは無意味と思われ勝ちだが必ずしもそうとばかりも言えない。私は自分宛の“宅内転送用”アドレスとして利用している。これがあると、宅内にある複数のパソコンのどこからメールを送受信してもすべて同じ履歴を各パソコン上に残すことができるのである。 |
迷惑メールへの対策としては、メーラーの持つフィルター機能を利用するのが一般的であろう。迷惑メールに表示されたタイトルやアドレスから何らかの特徴を見つけ出し(もちろんそのままの情報でもよい)、あらかじめフィルター上に定義しておいて次からは受信と同時にチェックしその定義に該当するものを削除してしまう機能である。
ところが長く使っていると、このフィルター上の定義が大きくなりメール受信の際の時間にも影響を及ぼすようになる。定義テーブルが大きくなれば検索に時間が掛かるのは当然のことであろう。そこで定義テーブルから古いものを削除するなりしてときどき整理してやる必要がでてくる。しかし古いというだけでは削除できない。最初の頃は無闇やたらと登録していたのだが、一度だけの迷惑メールも結構多いからそういうアドレスは登録しておいても意味がない。しかしどれが無意味かの判断が結構難しいのである。そこでアドレスそのものを登録するのではなく正規表現を利用してできるだけ網羅的に捕捉できるように工夫する必要がある。もっとも、余り規則をきつくすると本来受信しなければならないメールまでもが削除対象となってしまう恐れがあるから難しい。正規表現の記述には知恵を絞らなければならない所以である。
ところで、こうやってフィルター機能を使えば万全かと言うと必ずしもそうではない。何よりもこれは後追い処理なので、常にある程度の数の迷惑メールがフィルターを通過してしまうことになる。通過してきた迷惑メールに対しては正規表現を手直しして今度こそ網に引っ掛けてやろうと知恵を絞るのだが、結局同じことの繰返しとなる。
時々、迷惑メールに振り回され時間を無駄に浪費させられている自分に気づいて情けなくなることがある。本当に悔しい。
フィルターを抜けてきた迷惑メールを一箇所に集めておいて、ある程度溜まったところでそこから何らかの規則性を発見しようとする。しかし敵も去るもの、彼らも工夫をしているのだ。フィルターを抜けてくるのは、大抵は一度利用したタイトルとアドレスを二度と使わない“一発屋”の迷惑メールばかりなのである。これではフィルター機能も役に立たない。別の対策を立てなければならないと私はようやく気が付いたのであった。
大抵のメーラーでは、迷惑メールへの対策としてフィルター機能しか用意していないようである。ウェブ上での議論の場を覗いてみたが、どこでも主たる関心事はフィルター機能のようであった。“一発屋”の迷惑メールに役立つような対策は見当たらない。
普通、ウイルスメールや迷惑メールは人間の眼で見れば、一見してすぐそれと分かるものばかりである(もちろん例外もある)。これをフィルター機能で機械的に振り分けようとすると途端に処理が難しくなる。振り分け作業にもっと人間の判断を加えられるようにできないものだろうか。
そう思った私は、早速メールボックスの中身を“ちらっと見る”だけのプログラムを作ることにした。“ちらっと見る”とは、メーラーとは独立のプログラムでメールの最初の十数行だけを読み取るのである。添付ファイルなど見る必要はない。そして読む価値がないと判断したものは取り出さずにすぐ捨ててしまう。つまり郵便受けの中をちらっと見て、取り出す前に取捨選択してしまうようなものだ。その後で通常のメール受信をすればよい。
これをやってみると至極便利であることが分かった。
だいたいウイルスメールなどは見ればすぐそれと分かるものばかりなのだ。ある程度コンピュータ事情(あるいはウイルス事情)に詳しければ、ウイルスチェックプログラムの助けなど借りなくても、危険なメールであることはすぐに察知できる。たとえ詳しくなくとも、先頭の十数行しか見ないのでウイルス感染する恐れもない。正しいマナーを身に付け、外部から取り込んだファイルの扱いに慣れている人なら何の問題も起こらないであろう(そういう点に不慣れな人には余り奨められないが)。
一方迷惑メールの方は、素人でもちょっと見ればすぐそれと分かるから判断に迷うことはない。タイトルが何やら刺激的な文章であったり、送信者アドレスが意味のない長ったらしいつづりのアドレスだったりするからである。
一度フィルターを通して機械的にろ過した後で、この種の人間による判断を加えれば完璧である。その後で普段使っているメーラーで(ろ過された後の)きれいなメールだけを受信すればよい訳だ。めでたし、めでたし。
この“ちらっと見る”方式を採用してからは私のメーラーは実に清潔な状態になった。今までこの種の汚いメールはすべて無条件に自分のメールボックスに読み込まれていたのである。ウイルスに感染する危険はないと分かってはいてもあまり気持ちの良いものではない。迷惑メールなどはメールボックスを汚されたような気分になる。特に私はすべての送受信記録を一定期間残す習慣にしているので尚更である。この“ちらっと見る”方式を採用してからは私のメーラーは昔ながらの、つまりこの世にコンピュータウイルスも迷惑メールも存在していなかった頃の静謐な状態に復したのであった。ウイルスチェックプログラムも鳴りを潜めている。
できればこの“ちらっと見る”方式を備えたメーラーが登場してくれないかと私は密かに期待しているのである。■
【追記】
“ちらっと見る”方式のメーラーがないと書いたが実は存在していた。しかも身近に! 我が友、宮崎年之さん作のメーラーEdMaxには“選択して受信”という機能があって、これがまさしく私の求めている機能そのものであることが分かった。私は自分の拙文を掲示する前に、しかるべき方々へメールで送ってコメントを頂いたりしているのであるが、この拙文を宮崎さんにも送っておいたのである。それへの返信として彼が教えてくれた。
実は私はこのメーラーEdMaxの愛好者であり日々お世話になっているのであるが、この機能を使いきれていなかった。身近に求める機能があるのに使い方が分からなかったのである。“選択して受信”の後で使う「専用のツールバー」が地味で目立たないものだったので発見できず、使い方が分からなくなってしまっていたのである。実に恥ずかしい。
読者の皆さんには、このEdMax(http://www.edcom.jp/ からダウンロード可)をご紹介し埋め合わせをしたいと思う。このすばらしいメーラーが無料で使えるのです。
皆さんも是非使ってみてください。メールシステムを使い込んでいる人の作ったメーラーはやはり違う、と実感することでしょう。