私の作文作法
(2)

「手紙の書き方」について


 驚いた。驚いた。近頃こんなに驚いたことはない。

 拙著『‥‥の法則』の読者から届く手紙に対して、Y氏の教えを守って一つ一つ丁寧に返書を出していたのだが、その中に幾何の問題の解答が同封された手紙があった。最初は(以前掲示したように)“ニヤリとニヒルに笑って”いられたのであるが、続いて第二信で、とうとう正解が届いたのである。

 これは、別に驚くほどのことではない。

 これに対し丁寧に返書をしたためてサインし、手紙を封筒に入れようとしたその瞬間に思い出したのである。何をって、手紙をよこした主のことをである。
 この名は某大学の情報工学科の教授の名ではないか、数値解析が専門の数学のプロを相手にやりとりしていたのである。驚いた。
 しかも、あろうことか3年前に大学で直接お会いしていたのである。驚いた。驚いた。

 文面では、相手の名を“さん”付けで書いていたので、“先生”に書き直そうかとも考えたが急に変えるのも不自然なのでやめた。その代わり、追記として思い出した旨を手書きで書き添えて、失礼をわびることにした。

 それにしても、年齢も社会的地位も分からぬ見知らぬ人に対して手紙(Eメールも含む)を書くときは、私はいつも丁寧な文体で礼を失することのないように(そう!“抜かりなく”)書く習慣にしているので、万に一つの失礼もなかったと思うが。それにしても、冷や汗が出る思いであった。
 前に出した手紙の文面を読み返して見て、ほっとしているところである。

 しかし、驚いたことであった。

 知人への手紙はもちろんのこと、見知らぬ人に手紙を書くときも、ゆめゆめ文面に失礼のないよう配慮すべきであろう。■

(1996-08-20:掲示、2000-9-1:削除、2006-3-1:一部修正再掲示)