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私の本棚:ドナルド・クヌース
── ドナルド・クヌース先生の本
私の本棚を紹介します。
第27回は、ドナルド・クヌース(Donald Ervin Knuth)先生(*1)の本を取り上げます。
上掲写真で、右から順に、
(1)THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING Volume 1「FUNDAMENTAL ALGORITHMS」、
(2)THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING Volume 2「SEMINUMERICAL ALGORITHMS」、
(3)THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING 1「基本算法/基礎概念」、
(4)THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING 2「基本算法/情報構造」、
(5)THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING 3「準数値算法/乱数」、
(6)THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING 4「準数値算法/算術演算」、
(7)改訂新版「TEXブック コンピュータによる組版システム」
となっています(詳細は【解説欄】を参照してください)。
最初の2冊(1),(2)は、コンピュータの世界では“名著”とされているものです。私がこの本に出合って購入したのは1971年ですから、今やかなりの年代物になっているようです。多分、初版と呼んでもよいのではないかと思います。
将来、そんな名著とされる本とは知らずにアメリカで購入しました。後にクヌース先生(*1)が、(コンピュータ・サイエンスのノーベル賞といわれる)ACMチューリング賞を受賞した際(1974年)には、この本が激賞されたと聞いています。【注】(*1)なお、私は Dr. Knuth のことを、文書の中でも単に“Knuth”と呼び捨て(?)にはできないような心境なので、失礼ながら“先生”を付けさせてもらいました。
(1),(2)を日本語に翻訳したものが、(3),(4),(5),(6)の4分冊に対応します。
英文の原著があるのに、なぜ日本語版を購入したのかを説明する必要がありそうですね。もちろん英文より日本語の方が分かりやすいという利点がありますが、もう一つ理由がありました。当時コンピュータ関係の新しい用語が日本に入ってくると、英語の単語をそのままカタカナ表示で用いる風潮がありました(今でもその風潮は変わりません)。それを憂えた一部の研究者達が、日本語の良い用語を作ろうと計画し実践し始めたのです。たとえば、
“アルゴリズム” は“算法”、
“プログラム” は“算譜”、
“プログラミング”は“作譜”
などと表現していました。この本の翻訳者たちはそういう運動の推進者ばかりでしたから、私はこの書物を手に入れれば、その成果を早く身に付けることができるのではないかと考えたのです。コンピュータ教育の場でも教科書とされている本の翻訳版ですから、必要な用語のすべてが登場する筈と考えたのです。
しかし、そういう先駆的な努力が実を結ぶ前に、残念ながら“カナ文字表記”の用語が日本中に普及してしまったのです。
(7)は、コンピュータによる組版システムの本ですからプログラミングの本として独立に紹介したかったのですが、(1),(2)と密接に関係しているところがあるのでこの項でまとめて扱うことにしました。
【余談】最後に、余談となりますが、私めのハンドルネーム(ペンネーム、ニックネームとも呼ぶ)knuhsは、クヌース先生の名前をパクッたものではありません。自分の名前のローマ字表記の綴りを逆に綴っただけです。
インターネット・メールが盛んになる以前から用いていました。ある先輩から指摘されて初めてクヌース先生の名前の綴りと似ていることに気が付きました。knuth の発音を意識した後で、knuhs をどう発音するか考えたのを覚えています。同じ発音になってしまいますね。日本人は長音表記を示すとき“h”を挿入しますから、“クヌース”の発音は私のハンドルネームの方が益々ピッタリとしてきますね。困ったことになり… いえ、困ってはいません!
【解説欄】
▼THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING Volume 1 FUNDAMENTAL ALGORITHMS
***【初版本です!】***
First Edition 1968, Second Printing 1969.
・何故か、本の価格が幾らだったかの記録は残っていません。当然、高額だったと思います。今では「あの時、よくぞ購入した! 」と自分を褒めてあげたいような気分です。
( Volume 1 FUNDAMENTAL ALGORITHMS )
・最初のページの説明から、1968年発行, 1969年2刷であることが分かります。初版ですが、当然のことながら“First Edition”という表現はありません。
( First Edition 1968, Second Printing 1969. )
▼THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING Volume 2 SEMINUMERICAL ALGORITHMS
***【初版本です!】***
First Edition 1969, Second Printing, November 1971.
( Volume 2 SEMINUMERICAL ALGORITHMS )
▼1 基本算法/基礎概念
原著(1),(2)は、連続した内容で全体では4つの章(Chapter)で構成されています。(1)には1,2章が、(2)には3,4章が含まれています。これを章ごとに翻訳して、それぞれ1冊ずつにまとめたのが以下の4冊です。
以下に、原著のタイトルと章名を併記しておきます。
( Fundamental Algorithms / Chapter 1 - Basic Concepts )
( 1 基本算法/基礎概念 )
▼2 基本算法/情報構造
( Fundamental Algorithms / Chapter 2 - Information Structures )
( 2 基本算法/情報構造 )
▼3 準数値算法/乱数
( Seminumerical Algorithms / Chapter 3 - Random Numbers )
( 3 準数値算法/乱数 )
▼4 準数値算法/算術演算
( Seminumerical Algorithms / Chapter 4 - Arithmetic )
( 4 準数値算法/算術演算 )
▼改訂新版「TEXブック コンピュータによる組版システム」
クヌース先生は自身の著書「The Art of Computer Programming」の改訂版を作る準備を進めている途中で、新たに使うことになった写植による方法では従来の鉛による組版に比べて美しさの点で到底及ばないことに気が付きました。そこで、商業的にも通用する品質の組版ができるよう、柔軟で強力な組版システムを開発することから始めたのです。その結果生まれたのがTEX(テフ:正式な発音は後述します)だったのです。
( TEXブック コンピュータによる組版システム )
・TEX の読み方について
TEXの読み方の前に、先ず書き方を示しておきましょう。
“TEX”と表記できない環境では“TeX”と書くことが許されています。
TEXの発音は、インターネット上で見たところでは「テフ」,「テック」あるいは「テックス」などと読まれているようですが、この本のクヌース先生による説明文(以下参照)をよく読んで正しく発音できるように努力しましょう。
TEXの作成経緯と合わせてクヌース先生の意図を正しく理解すれば、正しく発音できるようになるでしょう。私は、まだうまく発音できないので「テフ」で我慢しております。
( TEXの発音の仕方 )
ドナルド・E・クヌース 高コ納 Donald Ervin Knuth (Wikipedia から引用)
▼本の詳細
(1)KNUTH THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING Volume 1「FUNDAMENTAL ALGORITHMS」:Second Printing 1969, Copyright (c) 1968 by DONALD E. KNUTH, ADDISON-WESLEY PUBLISHING COMPANY,INC.【初版本】(*2)
(2)KNUTH THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING Volume 2「SEMINUMERICAL ALGORITHMS」:Second Printing, November 1971, Copyright (c) 1969 by DONALD E. KNUTH, ADDISON-WESLEY PUBLISHING COMPANY,INC.【初版本】(*2)
【注】(*2)ISBN(国際標準図書番号)は、1970年に国際標準となったため、(1)と(2)の初版にはISBN番号が振られていません。しかし1997年発行のThird Editionでは、
(1)は, ISBN 978-0-201-89683-1 (?)
(2)は, ISBN 978-0-201-89684-8
となっています。
(3)KNUTH THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING 1「基本算法/基礎概念」:1978年3月31日初版発行, 1993年3月25日 初版第7刷発行, 原著者 D.E. Knuth, 訳者 廣瀬健, 定価4,944円(本体4,800円), 株式会社サイエンス社, ISBN4-7819-0302-9 C3341
(4)KNUTH THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING 2「基本算法/情報構造」:1978年4月10日初版発行, 1989年9月10日 初版第6刷発行, 原著者 D.E. Knuth, 訳者 米田信夫, 筧捷彦, 価4,944円(本体4,800円), 株式会社サイエンス社, ISBN4-7819-0303-7 C3341
(5)KNUTH THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING 3「準数値算法/乱数」:1981年10月25日初版発行, 1989年4月10日 初版第3刷発行, 原著者 D.E. Knuth, 訳者 渋谷政昭, 価4,300円(本体4,175円), 株式会社サイエンス社, ISBN4-7819-0304-5 C3341
(6)KNUTH THE ART OF COMPUTER PROGRAMMING 4「準数値算法/算術演算」:1986年8月25日初版発行, 1991年3月10日 初版第2刷発行, 原著者 D.E. Knuth, 訳者 中川圭介, 価5,974円(本体5,800円), 株式会社サイエンス社, ISBN4-7819-0426-2 C3341
(7)KNUTH 改訂新版「TEXブック コンピュータによる組版システム」:1989年10月21日初版発行, 1992年8月1日 第2版第1刷発行, 著者 Donald E. Knuth, 監修 斎藤信男 翻訳 鷺谷好輝, 定価6,000円(本体5,825円), 株式会社アスキー, ISBN4-7561-0120-8 C3055
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