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私の本棚:APL\360
── APL(A Programming Language)
私の本棚を紹介します。
第34回は、APL\360を取り上げます。
上掲写真は、
・Gilman Rose「APL\360 An Interactive Approach」
です(詳細は【解説欄】を参照してください)。
APL(エーピーエル)は、1957年にケネス・アイバーソン(Kenneth H. Iverson)によって開発されたプログラム言語であり独特の表記法を用います。多次元配列の処理が容易にできるのが特長です。APLは “A Programming Language”の略ですが、Iverson言語と呼ばれることもあります。
APLは独特の形状の記号を沢山使います。以下のキーボードを見てください。
( APLのキーボード )
APLを使うには、こういう特殊な記号を扱えなければなりません。これは大きな壁ですが、それを簡単に解決できる方法があったのです。
IBMのセレクトリック・タイプライターという電動タイプライターが開発されていて、そこに自分の使いたい字種の埋め込まれたタイプエレメントを装着すればよいのです。
( IBMのセレクトリック・タイプライター )
いろいろな字種フォントが埋め込まれたゴルフボール型のタイプエレメントがあり、それを所定の場所に装着するだけです。
ゴルフボール型のタイプエレメントは、一般に“タイプボール”と呼ばれていて、現在ではメルカリ等でレア物として売られています。
タイプボール-1 タイプボール-2
( タイプボールを装着したところ )
当時のコンピュータの入出力はタイプライターから入力し、結果もタイプライターにセットされたロール紙の上に出力印字される形態が普通でしたから、これですべてが解決してしまうのです。
したがって、APLを使いたければIBMのセレクトリック・タイプライターを手に入れることが必須でした。しかしIBMのタイプライターの内でもこのタイプライターは“究極のタイプライター”と呼ばれていて非常に高価でした。とても個人が手に入れることができるような代物ではありませんでした。
当時滞在していた研究所では、所長の部屋へ行くとその入り口となる前室に秘書が居る訳ですが、一流の秘書は必ず電動タイプライターを使っていました。それがセレクトリック・タイプライターだったかどうかは分かりませんが、私はそれが欲しくて仕方なかったのを覚えています。軽いタッチでキーボードに触れるだけで力強くかつ軽快な機械音を発してタイプされるのです。将来自分もあのような電動タイプが欲しいと思ったものです。
しかし、その翌年辺りからCRTの画面をコンピュータの出力用画面として用いる方法が普及し始めました。もはやロール紙にプリント出力する必要はなくなったのです。したがって入力と出力とを共用しているタイプライターやテレタイプのような機器は必要がなくなったのです。これは画期的なことでした。
現在では、APLの文字セットはユニコード(Unicode)にも登録されていてセレクトリック・タイプライターなどなくても使える環境が整っているようです。APL言語もJ言語へと発展しているそうです。
【解説欄】
▼Gilman Rose「APL\360 An Interactive Approach」
私はこの本を1971年にボストンで購入しました。
私は以前からAPLに関心を持っていたのです。IBMがやっていることは何でもフォローして研究するのが常識だった時代です。当時使っていたMultics環境下でもAPLが利用できるようになったのを知り、益々関心が高まりました。
そんな折に偶然、書店でこのAPLの本を見つけたのです。これは初版本です! タイトルが“APL\360”となっているのは、System 360上で処理系が実現されていたからです。 【お遊び】表紙の“APL\360”を、そのままそっくりに表示できたら楽しいだろうなと試みてみました。こういうことするの大好きなんです。 APL\360
( 表紙 )
( 裏表紙 )
今回、この古い書物を書棚から取り出して見ていると本の中に1通の古い手紙が挟まっているのが見つかりました。その文面によれば「電子通信ハンドブック」の作成時に、プログラム言語の章を担当していた大学教授からのものでした。私の提出したAPLを紹介する原稿についてのやりとりが記されていました。どうやら、私がAPL言語の紹介文にプログラム例を添付して送ってあるようです。
私はまったく覚えていないのですが、辞典とかハンドブックのような大著の作成では、担当した執筆者全員に出来上がりの書物が贈られるわけではありません。普通は協力した執筆者に配布するための分冊を作り、担当部分の章のみをもらうようになっています。
そういうものをもらえなかったので私の記憶には残らなかったのでしょう。いろいろ調べてみましたがよく分かりません。時期的にはオーム社の“電子情報通信ハンドブック”(1988/3)版が該当するようです。手元にないので確認はできませんが、そこにAPL言語の紹介記事があるのかもしれません。
![](https://3.bp.blogspot.com/-YoMBB3Il7Ys/W3VLzc7er_I/AAAAAAAASMw/uFT0tLoZ4QgdOb2NmB6UMpbsOFtiP_IjgCLcBGAs/s1600/KennethHIverson.jpg) Kenneth H. Iverson (Wikipedia から引用)
▼本の詳細
・Gilman Rose「APL\360 An Interactive Approach」 by Leonard Gilman and Allen J. Rose, Copyright (c) 1970 by John Wiley & Sons, Inc., $6.95, ISBN 0-471-30020-9 ***【初版本です!】***
![](/cgi-bin/user/skinoshita/Count.cgi?df=cf34.count)
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