素歩人徒然 仕事に対する責任感 溜飲を下げた思い出
素歩人徒然
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仕事に対する責任感


── 溜飲を下げた思い出

 今年は大型の台風が多かったが10月の後半に入りやっと台風の季節も終ったようである。
 台風26号が関東地方に接近した時には大学の授業が休講になるかどうかの騒ぎになった。幸いにも関東地方は直撃をまぬがれたが、それでも午前中の授業はすべて休講となってしまった。私の担当科目は午後だったので休講とはならなかったが、いつもより学生の出席率は悪かったようである。

 私が会社勤めをしていた頃は、台風や交通ストなどで出社に影響するような事態になると、普段以上に頑張って出社しようと努力したものである。仕事に取り組む姿勢や責任感があることを強調するには絶好の機会だったからである。特に大切な会議が予定されているような場合は、意地でも遅刻しないよう最大限の努力をするのがサラリーマンとしてのマナーであったような気がする。つまり、その程度のことでしか自己表現ができない社員ばかりだったとも言えるのだが。

 昔、T社とN社の合弁会社に出向していたことがあった。T社からN社へ技術移転(technology transfer)をするのが目的だったから、両方の親会社からかなりの人数の技術者(取締役クラスも含めて)が出向して一緒に仕事をしていたのである。
 ある時、全国的な交通ストライキがあり、我々T社から出向している社員達は当然のごとく、定時に仕事が始められるようあらかじめ準備しておくことにした。それがT社では普通のことだったのである。
 交通手段のない者は全員寝袋を用意したり布団を借りたりして前日から会社に泊まり込むことにした。翌日T社出身の社員達は全員、何事もなかったかのように朝一番から普段通りに執務していた。

 その時、N社から出向していた幹部(取締役)が社員の出社状況を確認しようと各職場の見廻りにやってきた。そして、T社のエリアでは全員がそろって普段通り執務しているのを見て「何だ、これは!」と驚嘆することになった。それに反しN社の社員がいるエリアはガラ空きだったのであろう。これは社風の違いかもしれないが、社員の仕事に対する姿勢、責任感、意気込みの違いを見せつけられたと感じたのではないかと思う。T社の一員として私は溜飲を下げたのであった。

 当時は、こういったことが仕事に対する責任感があるかどうかを知る指標の一つになっていたのである。最近は誰でもモバイル機器を持っているし、在宅に限らず何処に居ても仕事をすることが容易になっているから、必ずしも仕事に対する責任感の有無を判定する指標とはなり得ない。結構なことではないか。