素歩人徒然 メダルをかじる 金メダル 咬む かじる
素歩人徒然
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メダルをかじる


── スポーツ選手はなぜメダルをかじるのか?

 オリンピックで金メダルを授与された選手が、そのメダルを咬むジェスチャーをして見せるのはよく知られた行為である。ところがソチ五輪では、少なくとも日本選手に限ってはこのパフォーマンスが見られなかった。実は、行儀が悪いという理由で禁止令が出ていたらしいのである。

 私は以前からなぜ選手がメダルをかじるのか理解に苦しんでいたが、その関係の新聞記事を読んでいてやっと合点がいった。どうやらメディア関係者が選手にそういう行為をするよう要求しているのが原因であるらしい。ノルディック複合で銀メダルを獲得した渡部暁斗選手は、カメラマンからの要求を拒否したとのことである。

 カメラマンの立場からすれば、選手の顔とメダルを近付けさせて1枚の写真に納めたいという意図から発したものかもしれない。しかしそういうポーズをとってもらわないと良い写真が撮れないとすれば、プロのカメラマンとしては少し情けないのではないかと思う。
 それはさておき、新聞記事にはこのメダルをかじる行為が何を意味するかまで深く掘り下げた記事は見当たらなかった。

 昔流行った西部劇映画の熱烈なファンなら誰でも知っていることだが、昔は金貨を手に入れたらそれが本物の金(きん)であるかどうか確かめる必要があった。その確認のために“咬んで”みるのである。歯型が付く程度に柔らかければ本物の金(きん)である可能性が高い。しかし固くて歯型が付かなければ間違いなく偽物なのだ。このテストを実行するにはかじる必要はない。ただそっと咬んでみるだけでよい。

 そういう習慣があったことを知っていれば、表彰式でメダルを咬む(かじる ではないですぞ!)行為は、それが本物であることを疑っていることを意味するから甚だ礼を失した行為であると理解できるはずである。ましてや、金ではない(銀メダルや銅メダルの)受賞者に対して同じようにメダルを咬む行為を要求するのはあり得ないことなのである。渡部暁斗選手は「よくぞ拒絶した」と私は言いたい。

 私は、メディア関係者に次の2点を指摘したい。
(1) 金メダルは“咬む”のは構わないが、“かじる”ものではない。
(2) 金メダル以外のメダル獲得者にメダルを咬むよう要求してはならない。
それは自分の無知をさらすようなものである。