素歩人徒然 エイプリルフールとうるう秒 うるう秒が廃止される?
素歩人徒然
(135)

エイプリルフールとうるう秒


── うるう秒が廃止される?
旧版の【素歩人徒然(135)】「エイプリルフール後日談」の原稿を全面的に書き直しました。同時にタイトルも変えました。主たる変更は、うるう秒に関する最新の情報を加筆した点です(2023-1-16)。

▼エイプリルフール
 小学生の頃、エイプリルフールといえば“嘘を付いてもよい日”と聞いていたので、私は毎年この時期になると張り切って嘘を付いて人をだまそうと思ったものだ。しかし普段から嘘ばかり付いている(?)のに、いざとなるとなかなか気の利いた嘘を思いつかない。そんなとき自分は生まれつきの正直者であるに違いないと思ったりした。いや…、そう誤解したのであった。

 当時は、新聞のニュースやラジオの番組を通じて嘘が流され、それを真に受けた人たちが大騒ぎするのが後日談として報じられ人々を楽しませてくれていた。しかし最近はIT企業などの新興企業が中心になって、かなりの資金を投じて準備された嘘を流すようになってきている。それが会社の宣伝にもなると思ってのことであろう。最初から嘘に違いないと分かっていても、つい本気にして騙されたくなるほどの出来栄えであることがまた楽しい。

 2016年のエイプリルフールの前日(3/31)、私は自分のホームページの4月分の更新作業をしていたとき、突然自分もホームページ上でエイプリルフールの嘘を仕掛けてみたくなった。小学生時代の楽しかった思い出がよみがえってきたのである。

▼カラークロック・プログラム
 丁度“カラークロック”というプログラムをトップページに設定する予定だったので、これを材料にしようと思った。このプログラムは、現在時を24時間表示で、たとえば「13時45分05秒」のように時々刻々とデジタル表示するものである。同時に「時」,「分」,「秒」の値をそれぞれ16進数表示で連結し、長さ6桁の大きな16進数を作って壁紙の色として用いるプログラムになっている。時間の変化(秒単位)とともにバックカラーが刻々と変化する様子を見て楽しむのが目的である(*1)
【注】(*1)このカラークロック・プログラムは、ウェッブ上で見かけたものを参考にして作成した。初めて見た時、面白いアイディアだと思い私も自作してみたのである。しかしオリジナル版と比べて色調の変化が異なっていた。原因を調べてみたら、オリジナル版は時,分,秒をそれぞれ2桁の16進数に変換する際に先頭がゼロの場合の処理を誤っていることが分かった。私のプログラムの方が“正調”いや“正しい色調”だと判断し、自作版の方を私のホームページ上にアップすることにした。

 そこで、更新情報を表示する【What's New】の欄に、急遽以下のような記述を追加し、エイプリルフールの嘘を仕掛けることにした。



自作版・カラークロック


▼うるう秒
 読者は「何が嘘なのか?」と興味を示すかもしれないが、ここでは“”ではなく“興味深い現象”という表現を使っている。実は“うるう秒(*2)”による時間調整の過程を自分の時刻表示プログラムの上でシミュレートしてみたいと以前から考えていた。
【注】(*2)うるう秒
 1日の長さ(LOD:Length of Day)は、24時間×60分×60秒 = 86,400秒である。歴史的には地球が自転して1回転する時間の86,400分の1を1秒と定義したのである。しかし実際には地球の自転速度が変動するのでLODは一定ではない。変動する理由はいろいろあるが、潮の満ち引きによる潮汐摩擦なども影響しているという。最近では地球の自転が早まっているという説もある。それらを勘案して“うるう秒の挿入”という対応で辻褄を合わせてきたのである。
 “うるう秒の挿入”をホームページ上で見ることができたら、さぞかし楽しいことだろう。時,分,秒 を表す数値が上の桁に繰り上がる様子を詳しく観察できれば、必ず「嘘だろう!」と思うような興味深い現象を目撃できるはずなのである。それをシミュレートできる機会は4月1日の日だけしかない!!(何しろ時刻表示を狂わせてしまうのだから)

 これまで、日本でのうるう秒の挿入は27回行われているが、切れ目の良い日として1月1日か7月1日のどからかを選んで午前9時の直前に実施されてきた。そこで実験では、4月1日の各時間が切り替わる直前に(全部で24回)行うことにした(午前9時の1回だけでは見ることができる機会が少な過ぎる。その上テストするにも時間が掛かると思ったのである)。

 通常の繰り上げは、次のように行われている。
     :
   “08時58分57秒
   “08時58分58秒
   “08時58分59秒
   “08時59分00秒”← ここで繰り上がる
   “08時59分01秒
     :

 繰り上げは上記のように秒の桁から分の桁に繰り上げられる。同様にして分の表示も“00”から“59”に達すると時の桁に繰り上げられる。時の表示も“00”から“23”に達すると日の桁に繰り上げられる。

 うるう秒の挿入をシミュレーションで表示すると次のようになる。
     :
   “08時59分57秒
   “08時59分58秒
   “08時59分59秒
   “08時59分60秒”←うるう秒挿入(これが興味深い現象)
   “09時00分00秒”←実時間に合わせるため、表示しない
   “09時00分01秒”← 繰り上がり直後の状態
     :

 “08時59分59秒”で繰り上がった瞬間では“09時00分00秒”ではなく“08時59分60秒”にして1秒間の遅れを生じさせるようにする。

 全く他愛のない無害なウソである。毎年の4月1日に限って59分59秒の次には59分60秒が表示されるようになっている。目視でそれを発見するのはかなり難しいかもしれない。

▼うるう秒の廃止
 以前は、世界標準時としてグリニッジ標準時(GMT:Greenwich Mean Time)が広く使われていたが、現在は協定世界時(UTC:Coordinated Universal Time)が使われている。これは、世界に400台以上ある高精度な原子時計の進み具合を平均化するなどして協定世界時が決められる。これをもとに各国の標準時が調整されているのである。

 たとえば、日本標準時(JST:Japan Standard Time Meridian)は、東経135度分の時差を考慮して協定世界時より9時間分進んでいる。コンピュータのログデータの中に出てくるタイムスタンプの表記は、

    “14/Jan/2023:09:45:31 +0900”
または、
    “2023/01/14:09:45:31 +0900”

のようになっているが“+0900”がそれに当たる。

 うるう秒とは、世界標準時と自転にもとづく時刻とが、互いにずれないように調節するためのものである。したがって時間差が0.9秒に近づくと世界標準時を1秒分調整するかどうかの検討が必要になる。規則的なうるう年とは違って不規則に起こる事象なので半年前にしか分からない。

 うるう秒は、1972年の導入当時は重要な役割を担っていた。航海中の船が、現在位置を確認するのに特定の時刻の天体の方角から算出していたからである。しかし現在では全地球測位システム(GPS)を利用した位置特定が一般化したのでうるう秒の必要性はそれほど高くはなくなった。

 実は、うるう秒の挿入には昔から賛否両論があった。
 このような微妙な時刻調整がコンピュータ・システムに及ぼす影響の方が問題になっている。うるう秒によるたった1秒の追加が原因で複雑な障害が発生してしまうことは以前から指摘されていた。

 コンピュータの発達で1秒間に数万回もの株の売買取引ができるようになった証券取引業界では、1秒という長ぁ〜い時間があればいろいろなことができる。例えばプログラムを利用すれば、他の株の売買状況を見て瞬時に対抗する売買指示を出せるのである。

 特許権取得競争が激化する技術開発の分野でも、マイクロ秒単位のタッチの差で巨大利権の行方が左右される時代になってきた。そういう社会で1秒という時間が世界中で一斉挿入され何らかのシステムトラブルが発生したらどうなるのか。想像するのさえ恐ろしいことである。

 最近ではマイナスのうるう秒も起こり得ることが明らかになってきた。こうなると、うるう秒は廃止しようという意見が大勢となってきたようである。挿入した場合の社会的影響が余りに大きいため今後は実施されないのではないかと予想されるようになった。

 こうした中で、2022年11月の国際度量衡総会の場で“実質的な廃止”が決議されたという。少なくとも2035年までに結論を出すことになったという。

▼うるう年への疑問
 このようにうるう秒の問題は“廃止”という形で締めくくられることになりそうだが、時間のずれの問題は未解決のままである。一方、うるう年(*3)の方は規則的なルールだから問題なさそうだが、厳密には問題があるように思う。
【注】(*3)うるう年
 グレゴリオ暦では、次の有名な規則に従って400年間に97回のうるう年を設けることにしている。
 (1)西暦年が4で割り切れる年はうるう年
 (2)ただし西暦年が100で割り切れる年は平年
 (3)ただし西暦年が400で割り切れる年はうるう年
 この規則によってプログラム化しておけば何の問題もないように思われるが、400年間における平均の1暦年は、365+97/400=365.2425日(365日5時間49分12秒)となる。
 一方、地球が太陽の回りを一回りするには約365.24219日掛かると言われているからグレゴリオ暦の1年と実際の1年との間には約0.00031日程度の差が生まれる。これが積もり積もってゆけば、暦と季節とのずれは約3,320年で1日となる。この1日をどうするかは未だ未解決の問題である。そんな先のことは考える必要はないと先送りしているだけである。それでいいのだろうか。
 私は、昔から「うるう年」というものに何かある種のいい加減さを感じていた。それが何であるかを深く追求したことはなかったが。
 しかし今回、偶然「うるう秒」のことを調べていて、改めてそのいい加減さが分かってきたような気がする。「うるう秒」も「うるう年」も、はたまた「閏」という漢字にしても、どうも意味がよく分からない。具合の悪いところを付け焼刃で適当に手直ししているように思えるのだ。私が携わってきたコンピュータ開発におけるプログラムの虫つぶしでよく使われる対症療法的なやり方と全く同じではないか。私にはそう思えるのである。

 上記の【注】に記した「暦と季節とのずれは約3,320年で1日となる」が正しいかどうかは分からない。一応3,xxx年としておこう。3,xxx年に1度の“うるう日”を、将来設けることにしてこの問題を棚上げしてしまう手もある。しかし3,xxx年の起点はどこに置くのかは不明である。「今から3,xxx年後の最初のうるう年でない年をうるう年とする」と定めても、誰も自分事とは考えないから、結果として永遠に「3,xxx年先の話」と解釈するに違いない(実は、私はこの50年の間、ずっとそう思っていたようだ)。知らんけど。

▼4月1日(エイプリルフールの日)だけ楽しんでください
 最後に、うるう秒が廃止されるともう二度と見られないかもしれないので、私めはこのカラークロック・プログラムを毎年の4月1日(エイプリルフールの日)だけは“興味深い現象”が見られるようにしておきたいと思っています。

 毎年4月1日には(もし覚えていたら)是非じっくりと鑑賞してください。
(2016-05-01, 2023-1-16)