素歩人徒然 アメリカ 大統領の紋章 モットー
素歩人徒然
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大統領の紋章


── トランプ大統領のモットーは?

 トランプ大統領が誕生して1ヶ月となる。先日、テレビで初の単独会見をやっているのを見たが、自画自賛とメディア批判、そして怒号が飛び交う75分間の会見は「独演会」と言った方がよいようなものであった。こういう内容の会見をこれから4年間ずっと続ける積りなのだろうか。本人は8年間は大統領の座に君臨する積りらしいが。
 それを見続ける側も相当なストレスを感じているのだが、本人は分かっているのだろうか。本人は何のストレスも感じていないのかもしれない。実にタフな人物だと思う。

 先日の新聞に、アメリカ合衆国大統領の紋章に触れたものがあった。ラテン語で“E PLURIBUS UNUM”(エ・プルリブス・ウヌム)というモットーが、建国の理念である民主主義の原理を表すものであることを紹介し、トランプ大統領がこのモットーとは対極にある理念の持ち主であるようだ、という記事だった。

 その文中でモットーは「多くのものが集まってできた一つ」と訳されていたが、私はモットーとしては練れていない訳だなぁと思った(ラテン語の方は全く分からないけれど)。同時に、今は亡き友人の船津剛男氏が生きておられたら、当然一言あるだろうなと思ったのである。

 船津剛男氏は、コンピュータ関係の仕事の傍ら紋章学の熱心な研究者でもあり、私家版ではあるが「論考集:紋章とモットー」という大著をものされている。

図1:「論考集:紋章とモットー」

 病気のため入院される直前に手渡された一冊を私は大切に保管している。それを取り出して調べてみると、彼は合衆国大統領の紋章のモットーを「衆を以て一と為す」と訳されていた。うむ、こちらの方がしっくりとくる。

 解説を読んでみようと思ったが、残念ながら論考集は未完であり「論考その1」から始まって「論考その5」の途中までで終わっている。目次によれば、アメリカ合衆国は、最後の章「論考その9:国家と紋章とモットー」に含まれているはずである。長い闘病生活を予想して急遽まとめられたので最後の章まで含めることができなかったのであろう。続きが読めないのは残念なことである。彼のことだから、目次に出ているものはすべて論考が完了していたものと思う。本としてまとめて公表するには、もう少し確認の時間がほしかったのであろう。それが終わらないまま未完になってしまったものと思われる。

図2:「論考集:目次」

 彼は生前から多くの友人に、「近況報告」とか「うたたね草子」というタイトルのメールを定期的に送ってくれていたので、そういったテーマの話をしばしば聞いていた記憶がある。幸いにして、私は過去にやりとりしたメールは(船津氏のものに限らず)すべて保存しているので探せば出てくるかもしれない。私は電子メールを始めて以来、何度も使用するメーラー(Mailer)が替わってきたが、必ず古いメール類をそのままの形で受け継いできた。今使っているメーラーにも保存されている。捜してみることにしよう。

 早速「アメリカ合衆国」というキーワードで検索した結果、それらしきものが6件出てきた。

図3:「検索結果」

 かなり読みでのある量の文章である。それらを本人への断りもなくここに表示するのは許されない行為ではあるが、船津氏の卓越した知識力を知るには最適の機会なので、無断で一部を紹介することにする。メールの文章なので論考集の文体とはかなり異なっています。

図4:「アメリカ合衆国の紋章」

『ご参考までに、アメリカ合衆国の紋章(*1)について少し解説を試みたいと思います。
 アメリカ合衆国の紋章には、色々なものが描かれております。中央にアメリカの国鳥である白頭鷲が描かれています。なお、鷲は、キリストの復活と寛大の象徴でもあり、ハプスブルグ帝国の紋章等にも用いられています。キリスト教では福音書著者の聖ヨハネ(St. Jhon)を表します。その白頭鷲の脚に注目していただくと、向かって右側の(紋章用語でsinister)脚で13本の矢を、左(dexter)脚で月桂樹の枝を掴んでいるのが分かります。鷲の頭上には、雲間に輝く13の星(star)が描かれております。鷲の胸のところには、縞(stripe)の入った旗が置かれています。さらに嘴で帯(strip)を咥えています。よくみるとこの帯には何か文字が書かれていますね。この文句こそ、アメリカのモットーです。ラテン語で次のように書かれています。E PLURIBUS UNUM(*2)(エ・プルリブス・ウヌム) Eは「・・・から」を、PLURIBUSは「多くのもの」を、UNUMは「ひとつのもの」を意味します。全体では「多くのものからひとつのものを」という意味ですが、意訳をすれば「衆を合わせ、一を為す」、すなわち「合衆為一」ということです。衆は、元々は多くの人たち大衆を意味する言葉です。明治期の日本人がアメリカのことをアメリカ合衆国と訳したのはさすがでしたね。』

【注】(注は、引用者(knuhs)によるものです)
(*1)アメリカ合衆国の紋章は、大統領が公式の演説をする時、国章が必ず演説台の前面や後方に掲げられている。
(*2)メールの原文では PLVRIBVS VNVM となっていたので修正した。

 アメリカ合州国ではなくアメリカ合衆国なのである。“”が合わさった国ではなく、様々な人種から成る大“”が力を合わせて作った国ということであろう。トランプ大統領には是非とも知ってもらいたいことだが、彼は日本語が分からないだろうし、元々“本”など読まないらしいから日本人が(当時の!ですぞ)このように理解していたと知っても到底理解の外であろう。

 ところで、目次によれば、アメリカ合衆国のモットー「衆を以て一と為す」の次に
 初代アメリカ大統領ワシントンのモットーとして「行為は、結果次第」(Exitus acta provant)が掲載されている。これもメールで検索してみたところ更に興味深いエピソードが書かれているメールを発見した。しかしこれ以上の無断引用は慎むことにします。

 それより私が言いたかったことは、トランプ大統領にはワシントン大統領のモットーの方が似合うのではないかということである。

  「行為は、結果次第

 それとも、トランプ大統領の現状に最も相応しいモットーを我々で考えてあげたらどうでしょうか。

 たとえば、

  「総ては、思い付きから
  「目標は、成り行きのままに
  「総て、見せかけ
  「王様は、裸
  「不都合は、総て偽

などどうでしょうか。

 もちろんラテン語の知識はないのでラテン語表現は専門家にまかせることにします。