素歩人徒然 ミラクル エッシャー展 図録とは 上野の森美術館 エッシャーの宇宙 “Magic Mirror of M.C. Escher” 原画の黄ばみ 写像球体を持つ手 上と下
素歩人徒然
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エッシャー展


── ミラクル エッシャー展を見て

▼会場は…
 新聞広告でエッシャー展が開かれることを知った。エッシャーの画集は持っているが一度本物を見てみたいと思っていたので、これは良い切っ掛けになったと見に行くことにした。
 会場は上野の森美術館だったので、長い行列に並ぶことを覚悟し朝一番で行くことにした。

 
 ( 会場前 1 )     ( 会場前 2 ) 

 入場券を買って入口に並ぶと、既に10数人が待っていたが直ぐ開場となったので待たされることもなく入場することができた。幸先がいいようだ。

 中に入って見ると個々の絵の前にも行列ができている。私はその列にも辛抱強く並んで列が進むのを待ち、絵の正面に来るとその位置からじっくりと鑑賞し自らの脳裏に焼き付けることにした。

 展示内容は 科学, 聖書, 風景, 人物, 広告, 技法, 反射, 錯視 の8テーマに分類され展示されている。
 各展示物には、何歳ごろの作品であるかがすぐ分かるように“生年”と“没年”を両端とする数直線上に“作成年”のマークが表示されている。“作成年”の相対的な位置から若い時代の作品か、晩年の作品かがすぐ分かるようになっている。良く知られた有名な作品はほとんど中年以降に集中しているようだ。

▼初めてのエッシャーは…
 私がエッシャーの絵を初めて見たのはアメリカにいたとき(1968年)だから、今から50年前のことになる。アメリカのソフトウェア会社で共同開発をしていたときのアメリカ人メンバーの一人がエッシャーの画集を「どうだ、凄いだろう」と言って私に見せてくれたのである。確かに凄かった。精密な絵を描くのが好きだった私には衝撃的であった。特に視覚的な錯覚を生かした不思議な作品群には強い印象が残っている。

 そのとき見せてもらった画集を私も手に入れたかったが、初めての海外出張中の身で余分な金の持ち合わせなどない。自分の財布と相談するまでもなく購入を諦めるしかなかった。

 友人が見せてくれたその画集のことを、私は長らく「Magic Mirror of M.C. Escher」という本だと思っていたのだが、その後いろいろ調べているうちに、後述するようにこの本が完成したのは1976年であることが分かった。したがって私が見た頃はまだ出版されていなかったことになる。何という本だったのか今もって分からないでいる。

▼エッシャー紹介本は…
 後年、日本でもエッシャー作品の紹介本が出版されたので、私はすぐさま購入した。その本が「エッシャーの宇宙」である(【私の本棚(10)】参照)。
・「エッシャーの宇宙」:1983年7月15日 第1刷発行, 1986年10月5日 第9刷発行, ブルーノ・エルンスト 著, 坂根厳夫 訳, \2,900 朝日新聞社, ISBN4-02-255088-0

 「エッシャーの宇宙」の原著は“Magic Mirror of M.C. Escher”であり、著者ブルーノ・エルンスト(Bruno Eranst) は、この本を通じてエッシャーを世間に紹介した人として知られている。エッシャーの作品に魅せられた彼は、その作品を紹介する本の執筆を願い出て承諾を得た。
 しかし残念なことに、本の完成(1976年)を待たずにエッシャーは亡くなってしまう(生年:1898-6-17, 没年:1972-3-27)。

 なお「エッシャーの宇宙」には、そこで使われた版画作品、下絵、スケッチは、エッシャー財団(オランダのハーグ市民美術館内)の提供によるものであることが記されている。


マウリッツ・コルネリス・エッシャー
(Maurits Cornelis Escher)


▼イスラエル博物館とは…
 入場券の表示やエッシャー展の案内を見ると主催「イスラエル博物館」とある。エッシャーはオランダ人であるから、何故イスラエル博物館がこれほど膨大な作品を集められたのか、私は不思議に思って調べてみた。

 ( 入場券 ) 

 イスラエル博物館のコレクションは、アメリカの著名な弁護士で美術品蒐集家でもあるチャールズ・クレイマー氏から寄贈されたものらしい。エッシャーの全作品数は448点と言われているが、イスラエル博物館はその内の330点を所蔵している。今回のエッシャー展では、その中から選りすぐりの152点が日本で初公開されたことになる。

 なお、イスラエル博物館では、保全の理由から常時展示はしていないそうであるから、今回見学できたのは滅多にない貴重な機会であったことになる。

▼図録とは…
 全作品を見終わって会場を出ると売店があった。エッシャーに関わるいろいろな記念品が売られていたが、その中にエッシャーの図録( THE MIRACLE OF M.C.ESCHER \2,700)があったので迷わず購入した。


 ( エッシャーの図録 ) 

 展覧会図録というのは、特定の展覧会の展示物の記録であり展覧会カタログのようなものである。正式にはパンフレットの扱いになる。つまり、書籍ではないから書店で購入することはできない。会場での入手にはそれなりの金額が必要であるが、それでも書店で購入するのに比べたら格段に安くて済む。それがもし書籍の扱いだと、貴重な美術品の表示に関わる著作権料が上乗せされるから、どうしても高価な本になってしまうのだ。

 私は何時も展覧会の会場では、ボードに書かれた文字による説明文を読むよりも美術品そのものをじっくりと見ることに集中するようにしている。個々の作品の説明は、図録に記録されているから後で読めばよい。会場には音声案内もあったが、私は今まで利用したことはない。展覧会図録をもっと活用することをお勧めしたい。

▼展示作品について
 作品を見て一つ気になったのは、原画の黄ばみである。実際の原画を見て感じたことを写真画像で説明するのは難しいが概略の印象だけなら伝えられると思う。

 以下に写真の出典を示す(正確には、以下の出典物から私が写真撮影したものである)
(A)「エッシャーの宇宙」の p119 から
(B)「エッシャーの宇宙」の裏表紙から
(C)「エッシャー展の図録」の見開きから
(D)「エッシャー展の図録」の p141 から



(A)      (B)
 ( 「写像球体を持つ手」の比較 ) 

・(A),(B)は、エッシャー財団からの提供だから当然黄ばみはない。




(C)      (D)
 ( 「写像球体を持つ手」の比較 ) 

・(C)は、図録からのものであるが黄ばみがない。見開きの絵として用いられていて出品リスト番号は付されていないから、多分 原典はエッシャー財団から提供された画像データを用いたものではないかと思う。
・(D)は、図録の出品リスト番号105 のものである。


(E)「エッシャーの宇宙」の p116 から
(F)「エッシャー展の図録」の p188 から



(E)      (F)
 ( 「上と下」の比較 ) 


・(E)は、エッシャー財団からの提供だから黄ばみはない。
・(F)は、図録の出品リスト番号144 のものである。

 こうして見ると、図録の写真は、本当にイスラエル博物館所蔵の作品の現在の状態を(ありのまま)写真撮影したものであることが推察できる。