素歩人徒然 もう一度読みたい本
素歩人徒然
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もう一度読みたい本


── ハックルベリー・フィンの冒険

 私の書棚には、マーク・トウェインの「ハックルベリー・フィンの冒険」という本がある。

▼偶然の出会い
 大型書店の中を歩きながら何か新しい本はないかと探しているときに「海外文学」のコーナーで偶然に「ハックルベリー・フィンの冒険」という本に遭遇してしまったのだ。
 早速書棚から取り出してパラパラと頁をめくってみると、分厚い上に装丁も立派で、かなり高価な本である。原書で使われた挿絵が、ほぼすべて含まれているようだ。しかし私は直ぐもとの棚に戻してしまった。こういう本を見ると私は直ぐに買いたくなってしまう性格なので用心したのである。


 ( 分厚くて重厚な装丁 ) 

 ここでしばし考えた。以前から読みたいと思っていた本なのだが、今更大人が読む本ではないような気もする。しかし「今買わないと、いつか後悔することになるぞ」という悪魔(?)の囁きも聞こえてきて、結局購入してしまったのである。

▼読みたいと思っていた
 ここで、私がこの本を読みたいと思うようになった経緯について触れておくことにしよう。
 アメリカの研究所で仕事をしていた頃のことであるが、所長の家でのディナーに呼ばれたことがあった。その際に突然英語でスピーチすることを求められたのである。何も心の準備をしていなかったのでうまくできず、結局は恥をかくことになってしまった。下手な英語でもよいから何かしゃべるべきだったのだ。仕事に関わる話ならいくらでも話せるのだが、その場に出席している人達が理解できる話題を提供できなければ意味がない。そのとき感じたのは、こういう社交の場で必要なのは「英会話力」ではなく(それも必要だろうが)、自分が“語るべき何か”を持っているかどうかが重要なのである。私にはそれが決定的に欠けていたのだ。ソフトウェア技術者としての技術をみがくことには関心があったが、教養をみがく努力が足りなかったのである。

▼教養をみがくには
 後に、医療機器部門の副技師長で 海外出張の経験が豊富なM氏と話す機会があり、このときの体験を話すと良い方法を教えてくれた。M氏も同じような経験をしていたのである。彼が教えてくれた方法は「世界文学全集を読め!」というものであった。要するに誰でもが読んだことのある作品をしっかり読んで、その主人公の生き様、考え方、行動の仕方など何でもよいのだが、それを話題として取り上げて自分の考えを交えて議論を膨らませて行けばよいと言うのである。そのとき例にあげてくれたのが、マーク・トウェインの作品(トム・ソーヤーの冒険ハックルベリー・フィンの冒険)だった。

 たとえば、アメリカに行くのなら「トム・ソーヤーの冒険」が最適だと言う。アメリカ人なら誰でもが読んでいる作品だ(最近はどうなのか知りませんが)。そうやって彼らが知っている物語を取りあげ、その中のひとこまを話題にできれば彼らは喜んで聞いてくれるはずだというのである。そういう話題をいくつか提供できるようになれば心強いことであろう(*1)。しかし私は複数個用意する必要などないと思う。一つだけで構わない。「また同じ話をしている」と言われようとも、初めて聞く人が一人でもいればよいのである。貴方(女)も試してみませんか。
【注】(*1)老婆心ながら付け加えておく。先輩(英語の達人)に聞いた話では、この種のスピーチではジョークを交えて複数回の笑いを取ることが重要であるという。
▼もう一度読みたい本
 特に「トム・ソーヤーの冒険」や「ハックルベリー・フィンの冒険」は大人になってからでも、もう一度読みたいと思う人が多いらしい。それも、もし可能なら、子供の頃読んだときの記憶をすべて消し去り、まっさらな状態で読みたいと思うのだそうである(*2)
【注】(*2)これはある著名な人の言った言葉からの引用(の積り)であるが、誰だったかを思い出せない。正確な表現も思い出せない。困ったことである。
 私は、その後 英語でのスピーチを依頼されることもなく「世界文学全集」を読む必要はなくなった。しかしそのお陰で、今回は気楽にもう一度読むことができた。いや、以前読んだのは子供向けの簡易版であったから、まっさらな状態で、初めて読むことができたのである。