素歩人徒然 自衛消防隊 重大トラブルの発生
素歩人徒然
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自衛消防隊


── 重大トラブルの発生

 自衛消防隊の優勝祝賀会に出席した。

 毎年夏の恒例行事として、青梅市内各企業参加による自衛消防隊訓練審査会が青梅消防署の主催で行われている。当社の自衛消防隊も毎年参加しているが、今年は3年ぶりに優勝を勝ち取ってしまったのである。

 消防隊員は、当社では毎年新入社員で構成される習わしになっている。今年も3人の新人が隊員として指名され、以前隊員を経験したことのある先輩連中の厳しい指導を受けて訓練を重ねてきた。

 暑い盛りの戸外での訓練は想像を絶する程苦しいものであろう。その上、指導員も隊員も普段の業務を抱えながらの参加であるから、そちらの方の犠牲もともなう。指導員と隊員を送り出す側も、彼らの仕事が遅れることのないようバックアップすることにより間接的に協力している訳である。

 私は大会当日は来客の予定があり、大会会場から時間までに会社に戻れない恐れがあったので応援には行けなかった。しかし前日に行われた予行演習だけは見学した。演習のとき見ていると「給湯室から出火!」とか「てんぷら油が燃えています!」などと叫んでいる(確かそんな風に聞こえた)。私は、何で事務所の給湯室で“てんぷら油”が使われねばならぬのか、そこのところに深い疑問を感じたので、この疑問点を更に深く深く追求する必要がありそうだなどと考えている内に演技の方は終ってしまった。したがって彼らの演技内容をそれほどよくは覚えていない。しかしまぁ、残された時間内で更に努力を積めば入賞くらいはできるのではないかと思った。

 大方の予想でも、昨年に引き続き準優勝できれば上出来だろうという程度の下馬評だった。それが、本番の大会では案に相違して最高の評価を得てしまったのである。しかも隊員の一人は、減点なしで満点の評価を得たそうである。

 優勝祝賀会の席では中華料理をつつきながら、活躍してくれた隊員達とお互いに戦果を喜びあった。来年も是非優勝しよう! いや、毎年優勝してしまっては兄弟会社の手前やりすぎだ。いや、そんなことはない‥‥などと議論は白熱するばかりであった。その内に、正規の隊の他に来年は部長連中で構成する第二隊を作って出場したらどうかという話になった。そして「給湯室、異常なし!」と叫んで訓練を終了するのだという。うん、それはいい、それはいい!

 だいたい消防意識の徹底では、火を出さないことの方がより重要なのである。出火させてしまっては、いくら見事に消火活動をしてみせても意味がないといえるであろう。「給湯室、異常なし!」が一番よいのである。もし、審査員のなかに一人でもユーモアの分る人がいたら、我が第二隊は殊勲賞くらいは貰えるのではあるまいか。などと私は、盛り上がっている会場の中で一人考えていたのであった。

 コンピュータの世界ではお客に納めたシステムで重大トラブルが発生した場合、これをシステムが“火を吹いた”と称する(ことがある)。すわ一大事という訳で、大勢の人を総動員させて特別対策(消火活動)を実施する(ことがある)。そして最終的に問題が解決(鎮火)すると、その素早い対応が見事であったということで特別表彰の対象となる(ことがある)。

 しかし、トラブルなど発生させないよう十二分に解析・設計し、完璧にシステムを作り上げた連中の前には決してそのような華やかな舞台が訪れることはない。私は、本当に表彰されるべきは本来火を出さなかった者達の方ではないかと常々思いながら長い会社生活を送ってきた。この自衛消防隊の活躍を見ながら、私は再びその思いを新たにしたのであった。■