素歩人徒然 武器 有力な手段
素歩人徒然
(37)

武器


── 有力な手段

 このところ日本でも米国でも、学校での殺傷事件が頻発している。
 米国では銃砲の取扱い規制が緩いせいか、生徒が学校に銃砲類を持ち込んで騒ぎを起す例が多い。日本ではとても考えられないことだと思っていたら、大阪の池田小学校では包丁を持った暴漢が突然侵入し、実に凄惨な事件を引き起こしてしまった。

 こういった事件が続発するようになって以来、米国では生徒の所持品や服装に対する取り締まりが格段に厳しくなってきているという。教師たちは生徒のささいな言動に過剰反応するようになり、フロリダ州では通学に使う車の座席に食事用のナイフを置き忘れた女子高生が逮捕され卒業式への出席を禁じられてしまった。校長は「武器持ち込んだ者は例外なく警察へ通報する決まりになっている」と説明したという。

 なるほど、確かに食事に使うナイフも武器の一種かもしれない。昔、山登りをしていた頃「武器」と言えば食事をするときの箸やスプーン等のことだった。私は山行の時はいつも、ナイフとフォークとスプーンの3点セットを「武器」として愛用していたものだ。「武器を持って集れ」と言えば、食事の準備ができたことを知らせる合図だったのである。

 そんなことを懐かしく思い出しながら、私は辞典では「武器」はどう定義されているのか調べてみたくなった。新明解国語辞典によれば、

(1)「武器」とは、相手を攻撃し、自分を守るために開発された
   刀剣や銃砲類、

とある。そして二義的な意味として、かっこ付きで、

(2)その人の持ち合わせる、有力な手段の意に用いられる。
   例「語学が彼の武器だ・女性の武器は涙だ」

と記されている。

 なるほど、なるほど‥‥。でも、残念なことに「食事をするときの道具」という意味はないようである。これは是非とも辞典の編纂者に教えてあげねばなるまい。武器とは、何ものかに立ち向かうとき‥‥、いや、「立ち向かう」などと言うと敵対しているような印象を与えるから、単に「取り組む」と表現しておこう。つまり、何かに取り組むときその人が持ち合わせている有力な手段のことであると定義できるであろう。これからは、かっこ付きの二義的な意味の方をもっと強調すべきではないかと思うのである。

 我々がコンピュータに取り組むときの「武器」は一体何であろうか。人それぞれで好みの武器は異なっているかもしれない。パソコンの初心者にとって(特にオジサマ族にとって)それは右手の人差し指一本かもしれない。最近の若者達が愛用してやまないケータイでは、それは親指であるかもしれない。人それぞれであろう。

 私の場合、コンピュータに取り組むときの「武器」は色々あるが、まず真っ先に上げたいのがプログラム言語である。しかしこれが「私の武器であります」とはなかなか言い難いところがある。使用頻度の点から言えば、やはり毎日必ず使っているメーラー(*1)とかブラウザ(*2)等が真っ先に思い浮かぶ。それからエディタ(*3)、日本語ワープロ(*4)、表計算ソフト(*5)、そしてプレゼンテーションソフト(*6)と続く。お仕着せのパッケージソフトばかりではないかと言われそうだが、その通りであるから反論のしようがない。悔しいことである。

 プログラム言語と言えば(これまで何度も言及しているように)最近はPerlを愛用している。何の目的で使っているかというと、Webからの情報収集のためである。Web上にある自分のホームページ周辺は実は情報の宝庫なのである。どのページが何時、何回くらい参照されたか等の情報が詳細に記録され残されている。関係するディレクトリ上からこれらの生データを毎日取り込んできて、そこに残されたファイルのタイムスタンプやそのファイルの内容から情報を抜き出してくるのである。もちろん単にデータを抜き出すだけではなく、そのデータを見やすい形に編集しブラウザ上で見られるようHTMLファイルを作り上げるところまでを一気にやってしまう。

 Perlという言語は、そういうHTML記述のテーブル類を自動的に作り上げるのに実に適しているのである。ただ、Perlはコンパイラ型の言語ではなくインタープリタ型なので、この種の作業を行うためには毎日Perl処理系を動作させることが必要となる。先に触れた使用頻度の点から見ても、メーラーと同じ程度に毎日使われているので、これこそ「私の武器である」と言っても決しておかしくはない存在になっていると私は思うのである。

 ところで、冷戦が終りを告げたとはいえ、今なお世界各地では戦闘が繰り返され、銃砲類を武器とする殺戮が行われている。武器と言えば、人を傷つけ、敵を攻撃するための刀剣や銃砲類を指すのではなく、かっこ付きの二義的な意味で用いられる「その人の持ち合わせる有力な手段」の方をまず思い浮かべるような世の中に早くなってほしいものである。■

【注】
(*1) Outlook Express/EdMax
(*2) Netscape Navigator/Internet Explorer
(*3) 秀丸エディタ
(*4) Word 昔はよく「日本語ワープロ」などと言ったものだが、
      要するにワードのことである。

(*5) Excel
(*6) Power Point