素歩人徒然 ウィルス 感染症対策
素歩人徒然
(42)

ウィルス


── 感染症対策

 ウィルスや病原菌による感染症が猛威を振るっている。

 単に「ウィルス」と言うと、普通は生物学的なウィルスを指すが、最近は「コンピュータウィルス」のことも単に“ウィルス”と呼ぶようになった。いずれのウィルスであるにせよ、我々人間にとっては甚だ迷惑な代物であることに変わりはない。

 ウィルスのせいもあり、今や安心して使える通信手段はなくなってしまった。電子メールからはコンピュータウィルスが、通常郵便からは炭疽菌が検出される世の中である。そうかといって携帯電話を持つと、人中でところ構わずピーピーと鳴りひんしゅくをかうことになるので使う気にもならない。もはや、安心して使えるのは家にある電話からのファクシミリしかないように思えるご時世である。

 ウィルスの中でも特に恐ろしいのは中央アフリカのザイールで発生したエボラ出血熱であろう。その感染力の強さの故に殺人ウィルスとか恐怖のウィルスと呼ばれ一時は大騒ぎとなった。エボラウィルスの感染は血液や体液を介してのみ起こると言われている。天然痘のように空気感染することはない。
 エボラ出血熱の最初の患者は医療機関の検査技師だったそうである。腹痛を訴えたので腸閉塞と診断し手術をしたが患者は死亡してしまった。その結果、素手で手術を行った医師や看護婦など病院関係者に感染してしまったのである。後知恵になるけれど、手術を行うときに手袋、マスク、ガウンなどを着用し完全武装していれば感染は防げたのである。
 コンピュータウィルスも、素手で扱ってはいけないということか。 ‥‥なるほど、なるほど。
 医者が手術の際に手袋をするようになったのは、B型肝炎の感染が問題となってから以降のことであるという。それまでは、医師の側から患者に感染させてはいけないという配慮から、医師は自らの手を消毒していた。しかしこれ以後、患者から医師への感染も考慮する必要がでてきたのである。
 コンピュータでも同様で、自らウィルスに感染しない、他人には感染させないという注意が必要だということか。 ‥‥なるほど、なるほど。

 以前はウィルス対策とクラッカーによるハッキング対策とはまったく別物であった。しかし最近は、ウィルスが進化したためであろうか、両者の結びつきが強まり対策も両者を関連させる傾向にある。我々は常にウィルスやクラッカーの侵入を意識する必要がでてきたのである。特にブロードバンドの時代となりインターネットへの常時接続が普通になると、誰でもファイアウォール機能を備えワクチンソフトを常備して完全武装することが求められるようになった。

 エボラ出血熱は、野生動物が宿主となりそこから人間に感染したと考えられている。しかし動物学者などのチームが様々な動物を3千個体以上も捕獲してエボラの抗体があるかどうかを調べたが、まだ見つかっていないという。エボラと同じように西アフリカで発見されたラッサは、マストミスというネズミの一種が感染菌を運んでいることが分かった。それ以後マストミスに注意を払うようになり感染は激減したという。治療法は分からなくても感染源を特定できれば、ある程度は発症を減らすことができるのである。

 コンピュータウィルスも、感染源の特定が必要ということか。 ‥‥なるほど、なるほど。

 コンピュータウィルスは、かつてはプログラムやデータを記憶したフロッピーディスクなどを媒介として感染するのが普通であった。つまり宿主であるフロッピーディスクに気を付けていればよかったのだ。ウィルスチェックもしないで直接(素手で)扱うようなまねさえしなければ、感染は簡単に防げたのである。しかし最近ではウィルスも進化し、電子メールやその添付ファイル、あるいはアプリケーションプログラム等から感染するようになった。感染源が多様となり宿主を特定することが難しく、気が付いたときには既に侵入されていたということになってしまう。

 コンピュータウィルスも、経口感染する時代になったということか。 ‥‥なるほど、なるほど。

 もともとウィルスによる病気はほとんど治療薬がない。ウィルスが原因する死亡率の高い病気としては、黄熱、クリミヤ、マールブルグ、ラッサ、そしてエボラ等がある。これらは基本的に血液感染であり、治療法は発見されていないらしい。したがって患者を隔離するのが一番の対策なのである。ラッサ熱は発症して6日以内であれば、死亡率を下げる薬が開発されている。しかしこれはむしろ例外であって、普通はエボラのように潜伏期間が短く直ぐ発症してしまうので対策の立てようがない。
 エボラの流行は、注射器が原因で感染した事例も報告されている。同じ注射器を消毒しないで何人もの患者に使ってしまう、いわゆる注射器の使いまわしが原因であった。

 コンピュータの場合も、同じマシンの共同利用という「使いまわし」は避けるべきということか。 ‥‥なるほど、なるほど。

 新種のウィルスに感染したら、治療法が見つかるまではとりあえず隔離すべきであろう。不幸にして発症してしまったら徹底的に隔離して封じ込め、被害の拡大をくい止めることが重要となる。そのためにも、常に最新のワクチンを備え、もし感染しても直ぐに対応できる体制が必要である。

 コンピュータウィルスに対しても、常に最新のウィルスパターンを利用せよということか。 ‥‥なるほど、なるほど。

 ところで、日本では劇症の感染症はあまり増えていないが、これから警戒しなければならない感染症は結核であるという。アメリカでは結核は完全に征服されるだろうと考えられていた時期もあった。ところが最近、患者の数が逆に増え始めたという。特にエイズ患者等で免疫力が低下している人がかかりやすいのだそうである。

 コンピュータウィルスも、免疫力が問題になるということか。 ‥‥なるほど、なるほど。

 我々は日々マイクロソフト製品(*1)に取り囲まれて暮らしている。マイクロソフト製品ばかり利用していると、免疫力が低下してウィルス等の病原菌に犯されやすくなる。特に、Outlook や Outlook Express などのメーラーを使っていると、受信メールを見ただけで感染してしまうという。これはまさに空気感染ではないか。恐ろしい、恐ろしい。

 コンピュータウィルスも、とうとう空気感染を心配しなければならない時代になったのか。 ‥‥なるほど、なるほど。
【注】(*1)特に、Internet Explorer, Word, Excel,Outlook, Outlook Express 等

 メールの添付ファイルではなく、メール本文を見ただけで感染してしまうというので一部では恐慌を来たしているという。純粋なテキスト文書(*.txt)を見るだけなら感染なぞするはずがない。技術的なことが分かっていればこれは自明なことだ。問題はHTMLテキストにある。HTML形式で書かれた文書は、本来はブラウザ(Internet Explorer や NetScape)で読まれるべきものであるが、最近のメーラーはこれを表示することができる。特に具合の悪いことに、マイクロソフト社のメーラーは、送信するメールに対してはHTML形式かテキスト形式かの区別を指定できるが、受信メールに対してはそれができない。何でも指定の通りに構わず表示してしまう。したがってHTMLの記述に何か悪さをする部分が含まれていると、Internet Explorerのセキュリティーホール(*2)を通じて侵入されてしまうことになる。

【注】(*2)セキュリティ上の欠陥で、主に大量のデータを読み込ませバッファのオーバーフローを起こさせ方法で侵入する。

 マイクロソフト製品にうずもれていると良いことは何もない。肥満体質で動作がのろまになることはよく知られているが、ウィルスや病原菌に対する免疫力も無くなってしまう。マイクロソフト社はユーザーが求めるものを提供していると自負しているが、その言葉を信じていると碌なことはない。色々なメーカーの多様な製品群を偏りなく使っているユーザーの方が、外敵に対する抵抗力が強い頑健な肉体を作ることができる。つまり、抗菌性に優れたシステムを構築できるのである。心したいものである。

 ウィルスや病原菌に対する最大の防御は、やはり偏食しないで何でも食べ、抵抗力の強い頑健な肉体をつくること以外にないということか。 ‥‥な〜るほど、なるほど。