素歩人徒然 常時接続 環境の整備
素歩人徒然
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常時接続


── 環境の整備

 インターネットが時間制限なくいくらでも使えるという、いわゆる“常時接続”の環境を得ようと試みた。結論から言うと、私の場合当初から希望していたADSL(*1)での利用は不可能ということになった。この間の事情を記してみようと思う。

【注】(*1)Asymmetric Digital Subscriber Line

 私はインターネットをそれほど頻繁に利用している訳ではない。ネットサーフィンをする趣味もない。それなのに常時接続の環境がほしいと思ったのは、電話回線を通じてのウェッブ接続(ダイアルアップ接続)はどう考えても不自然だと思うからである。普通の音声電話ではいくら長時間接続していてもそれほど気にはならない(いや、少しは気にはなるが)。それなのにダイアルアップ接続でインターネットを利用しているときは接続時間が気になって気になって仕方がないのである。何となく落ち着かない。この差は一体何なのであろうか。

 思うに音声通話の場合は、たとえ「アー」とか「ウー」とか言っている意味のない時間が多いとしても、基本的には両方の話者は切れ目なく交互に(たまには同時に!)話し続けている。余程深刻な話題でもない限り、長時間の沈黙が続くことはまずないといってよいであろう。いや、たとえあったとしても沈黙が意味を持つことだってありうるから、それはそれで重要な情報交換が行われていると考えてよいと思う。

 しかるに、インターネットを利用するような場合には、データの転送が完了しそれに対する画面が構築された後では、ただ画面を読むだけの作業がしばらくは続くことになる。その間は情報の転送は一切何も行われない。逆に言えば、情報転送を必要としない時間帯が必ず存在するのである。そしてその間にも通話料金の方は着々と積み上げられていく。「けちなことを言うな!」と叱られそうだがこれは単にお金の問題ではなく(正直なところそれもあるが)こんな無駄なことが許されていてよいはずはないと私は思うのである。電話回線の方はその間確実に占有されているのだから電話会社には料金を請求する権利がある。私はそれに対して何ら文句を言う気はない。ただ、そのような無駄な環境に身を置いている自分がたまらなくいやなだけである。

 私が常時接続にこだわるもう一つの理由は、IPアドレスの取得である。独立したIPアドレスを持っていれば、家から大学のftpサイトにアクセスできるようになり講義で使うファイルを自由にアップロードしたりすることができる。そうなれば、大学のスタッフにアップロードを依頼したり、前もって個々の学生にファイルを送ったりする必要もなくなる訳である。

 そういった背景があったので、某Y社が格安料金でのADSLサービスを発表したとき私はすぐさま(仮)申込みの手続きを行った。それが昨年(2001年)の6月のことである。7月になってやっとY社の準備も整ったらしく、正式の申込み手続きが完了した。やれやれ‥‥。
 そうしてしばらく待つ内に9月となり、やっとADSLモデムのセット一式が宅急便で自宅に届けられた。しかし何時から使えるようになるのかという最も知りたい点の説明が抜けていた。私は構わず取り付けてみることにした。しかし説明書の通りには動作しない。どうやらまだ電話回線にADSL信号が来ていないらしい、そう私は解釈したのである。

 私の地区での電話工事の進捗状況を知ろうとインターネット上で調べたり、サービスセンターにメールで問い合わせたりしたがどうにも埒があかない。そのうちにとうとう10月となってしまった。そしてやっとカスタマーサポートセンターから連絡が入ったが、それは「しばらく待つように」という指示であった。これはもう辛抱強く待つしかあるまいと私は覚悟をきめたのであった。

 その後も何度かメールでのやりとりがあり、電話での指示にもとづいて機器のテストを行ったりしたがうまくはいかない。結局Y社のスタッフが直接現地調査に訪れることになった。この程度の機器の取り付けを自分一人でできないとは、実に情けないことである。しかし動作しないのだから仕方がない。しかしやってきたスタッフにも原因の究明はできず、結局何の成果も得られないまま帰っていった。

 11月になって新しい別の型の機器(スプリッター)が送られてきたが、その新しいスプリッターのテストでも(予想した通り)何の成果も得られなかった。その旨メールで報告すると、だいぶ経ってからお宅の回線では、NTTのISDNの影響でADSLは利用できないことが分かりました。よって契約を解除したいとの連絡である。今更冗談ではない。私はISDN(*2)なぞ利用してはいない。多分、近所の人が使っているのが近くを通る回線に影響しているのであろう。

【注】(*2)Integrated Services Digital Network

 私はかねがねISDNの存在が日本のインターネットの進歩を遅らせていると思っていたので、これは何としてもNTTに問題の解決をはかってもらわねばならぬと考えた。そこで私は自分でNTTに電話し直接交渉を試みたのである。ところがNTTの担当者はISDNが原因であることを認めようとしない。調査依頼に頑として応じないのである。NTTとしてはISDNが原因とされては困るからであろう。

 話は再び振り出しに戻り、Y社を通じて電話局と私の家を結ぶ回線の品質調査をNTTに依頼することにした。その結果分かったことは次のようなものであった。NTT局舎から私の家までの実際の電話回線の距離は2km弱であり、回線を分岐させるために取り付けられているブリッジタップという装置があることが確認された。このブリッジタップはADSL信号を反射してしまうため、速度低下の原因ともなる。さらにISDN回線が私の家の電話回線付近に敷設されていることが分かった(そんなことは分かっているわい。ADSLでは期待した転送スピートが出ないことが問題となっているので、いつもこういった言い訳をしているのであろう。私の場合はスピードが出ないのではなく全く受信できない!のが問題なのである)。

 Y社は低コストで高速化を実現しやすいAnnex Aという規格を採用している。これはISDNと重なる周波数帯域を大幅に使用しているため、近隣でISDN通信が行われていると極端な速度低下や伝播距離の低下を引き起こすという問題がある。一方、NTTはAnnex Cという規格を採用している。Annex CはISDN回線と同期し、干渉の大きさに応じて通信速度を変化させることによって干渉による速度低下を防いでいる。

 つまりNTTの定めた仕様であればISDNの干渉は起こらないという主張のようであった。更に私の自宅内の回線調査を実施するには1万円の費用が掛かるとのこと。それで問題が解決するのであれば1万円を払っても惜しくはないが、必ずしも問題が解決するとは限らないという。この時点で私はADSLの信頼性に疑問を持つようになりその利用を断念することにした。今更NTT仕様に乗り換える気も起こらない。

 さて、これからどうしたものか。
 こういった問題はあちこちで起こっているらしく一部では裁判沙汰にもなっている。今更Y社を訴えても仕方がないが、そうかといってこのままダイアルアップ接続を続けるのも我慢がならない。そこで私はCATVを利用することにした。幸い我が家にはCATVのケーブルが来ている。私の家の近辺ではTV受信の際に電波障害が起こる可能性があるということで、かねてからCATVケーブルが敷設されていたのである。私はケーブルTVなど見ないのでCATVには関心がなかったが、こういうときには役に立ちそうである。

 しかしCATVでのインターネット接続では、LAN接続と同じで固有のIPアドレスが確保できないことが多い。それはまあ仕方がないとあきらめてCATVを利用した常時接続で我慢することにしよう。6月頃から始めた常時接続の試みも実現しないままとうとう半年が過ぎ12月末となってしまった。ここらで決着をつけねばなるまい。
 年内は無理としても来年早々には開通させたいと思い、私は電話で申し込みを行った。すると2日後に下見にきて5日後に工事が行われ、その日(12月28日)のうちにあっさりと開通してしまったのである。しかも料金の方はY社とほとんど変わらない格安ときている。半年間すったもんだしたのは一体何だったのか。かくして私は念願の常時接続の環境を手に入れることができたのであった。

 ところで常時接続になると、当然のことながらそれにともなう環境の整備が必要となる。ダイアルアップ接続では、ほとんど問題にならなかったシステムへの不正アクセスも起こりうる。そこで簡易版のファイアウォール機能を設けたり、常に最新のウィルスパターンを用意してウィルスの侵入に備えたりといった配慮が必要となる。私はそのための対策も行って何とか人並みのシステムを構築することに成功したのである。やれやれ。

 常時接続になると、利用上でもいろいろと便利なことが多いのを知った。近くにある高速道路のインターチェンジ(用賀IC)の混み具合が固定カメラの映像を通して常時監視できるのである。車で出かける際には役に立ちそうである。
 ウィルスパターンが常に最新のものにアップデートされるよう(自動更新の設定)になっているので、メールを介してのウィルス侵入を防ぐにはこれ以上安心なことはない。

 データ転送速度も下りが8Mbpsと高速なので、いくら大きな添付ファイルの付いたメールが送られてきてもメールシステムが目詰まりを起こすこともない。ファイルのダウンロードも極めて簡単である。そのせいもあって私は特別必要ないものまでいろいろとダウンロードしてしまっている。最近では、Netscapeの最新版(V6.2.1)のシステムをダウンロードしてインストールしてしまった。しかしこれが大失敗で、未完成の商品以前の代物であり酷い目にあっている。V6.2.1を使って私のホームページ(特に[ガイドタブ]のぺージ)を開くと必ず固まるから注意が必要である。新しもの好きは気を付けたほうがよい。
 常時接続といっても、普段通りの普通の使い方をしていた方が無難のようである。■