素歩人徒然 集中力 集中力を継続させる法
素歩人徒然
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集中力


── 集中力を継続させる法

 ソフトウェア開発という仕事に従事していた頃、優秀なプログラマと並みのプログラマの違いはどこにあるのかを考えたことがある。設計能力だとか、全体を見渡す能力だとか、あげれば色々とあるが、要するに一番の違いは集中力の違いではないかと思う。
 プログラマに限らずどんな仕事に取り組むにしても、集中力を高めることが重要であることは誰でも知っている。しかし、これがなかなか難しいのである。

 誰でも、自分の好きなことには集中できるものだ。電車の中で他人の目など気にせずケータイやゲームに夢中になっている人は、まさに集中度を極端に高めた状態にあると言えるであろう。この様に、誰でも集中度を高める能力は持っているのである。しかし、好きではないこと、あるいは好き嫌いとは関係ないことで、何事かに取り組まなければならないのがこの世の常である。そのとき、長時間継続して集中力を高めつつその仕事に取り組むことができるかどうかが問題なのである。

 人間の能力は、個人によってそれほど大きな違いはない(少なくとも我々凡人の場合は)。能力の差は、集中度(集中してものを考えるときの深さの度合)と時間(集中している継続的な時間)を掛け合わせたものとして表すことができるのではないかと思う。

  能力 = 集中度 * 時間

 普通は、一つのことに1時間も集中していられたら立派なものである。私はプログラミングの仕事をしている当時、2時間集中してやることを目標にしていた。なかなかできなかったけれど。途中で休みたくなっても我慢して集中し続ける(*1)。これを習慣にして繰り返していると、集中している時間が長くなるとそれにともない集中度も深くなっていくことを経験的に学んだ。間に休憩を入れて、トータルでは同じ時間やったとしても、その同じ深さにまでは到達できないような気がするのである。並みのプログラマは途中で直ぐ休む。たばこを吸いに席をはずしたり、お茶を飲みに行ったりしてしまう。彼らは、その間に折角浮かんだ良いアイディアが、消え失せてしまっていることに全く気が付いていない。つまり、継続して集中することができるか否かが、能力差となって顕著に表れるのである。

【注】(*1)概略 8時-10時, 10時-12時, 13時-15時, 15時-17時 の2時間単位で仕事に取り組むことにしていた。この間に5分程度の休憩を入れる。休憩と言っても遊んでいる訳ではなく、全く異質な仕事を入れればよいのである。昼食後の 13時-15時の時間は一番眠たくなる時間帯であるから、昼休みは仮眠するとよいことも学んだ。ウトウトする程度でよい。集中度を極端に高めて仕事に取り組むとかなり疲れる。3時間以上の残業は体力的にできなかった。

 継続して集中することが重要であると分かっていても、残念ながらその通りにはなかなか実行できないものである。それは、一つのことに“継続して集中する”ための方法を知らないからである。これは一種のスキル(技能)であると言ってもよい。
 人間は、同時に複数のことをやろうとすると、そのいずれに対しても十分には対応できなくなる。したがって、先ずやらなければならないことは、気が散る要因を排除して本来の目的だけに意識を向けられるようにすることが重要である。

 最初に、パソコンやケータイの電源を切るとよい。パソコンを使って仕事をしている人は電源を切れないが、メールチェックできない状態にすることはできるはずである。
 つまり、仕事の途中で気が散る最大の要因はメールなのだ。他人からメールが届いていないか。直ぐに返信しないとまずいのではないか、…などと考えていたのでは集中力は維持できない。その他、気が散る原因となるものがあれば、できるだけ遠ざけた環境に自分を置くことが重要である。

 大学での講義中、私は学生に対してケータイの利用を(机上に置くことも)禁じているが、それでも利用している者が多い。注意すると「身内の者に、もし不幸があったとき連絡が取れなくなる」とか「授業中にケータイの辞書機能を使いたい」とか、毎年色々な理由づけをしてくる。今年はどんな言い訳を言ってくるか、その理由を聞くのが楽しみなくらいである。そんなことに気を使っていたのでは、講義を身を入れて聞く気にはなれないであろうと思う。
 一番重要なのは“継続して集中する”のもスキルの一つであると自覚することである。つまり、集中力を継続させるには方法があることを理解し、意識的にその方法を身につけようと努力することが大切である。この際、ケータイのことは忘れて、一つのことに没頭する経験をしてみてはどうであろうか。■