素歩人徒然 抗体と気合 気合だけでは勝てない
素歩人徒然
(66)

抗体と気合


── 気合だけでは勝てない

 昨夜は酷い目に合った。8月の初旬だというのに急に寒気(さむけ)に襲われたのである。風邪をひいてはいけないと思い、熱いシャワーを浴びて身体を温めてから寝床に入ったのだが、それでも寒気の方はひどくなるばかりであった。夏蒲団の上に毛布を掛け、更に寝巻きの上から手近にあったスポーツウェアを着込んで寝ることにした。熱も出てきたようである。
 今、私の身体の中では抗体が総動員され風邪ウイルスと闘っているのだ、それで熱が出ているのだと自分に言い聞かせながら、暑さと寒気による不快さに耐えていると、寒気の方は次第に薄れていって大量の汗が出てくる状態になった。何とか抗体が風邪ウイルスをやっつけてくれたようである。早めに対応したので風邪にならずに済んだ。そう言えば、数か月前にも同じような状態になり、結局風邪にはかからずに済んだことがあるのを思い出した。

 この25年程の間、私は一度として風邪をひいたことがない(*)。花粉症なので鼻をグスグスさせていることは多いが、これは風邪ではない。風邪をひかないのは、私が普段から節制しているからである。外出から帰れば必ず手を洗い、うがいをする。こういう習慣が身に付いていれば風邪なぞ怖くはない。今ここで風邪をひいてはいけない、と思ったら絶対に風邪をひかない自信があった。気合いが入っていないから風邪をひくのだ。まさに、浜口親子の「気合だ!」「気合だ!」の世界を固く信じていたのである。

【注】(*)私は「風邪をひいたことがない」とか「コンピュータウイルスに感染したことがない」などと大言壮語すると、後で碌なことにならないのを私は十分に承知している。そんなことを言おうものなら、翌週には見事に感染して醜態を曝すことになるのはよくあるパターンである。したがって、こんなことは書きたくはないのだが、私の主張の信憑性を補強するためのデータとして、どうしても示しておかなければならないのである。

 しかし新型インフルエンザ騒動から得られた知見によれば、70歳代以上の年配者はインフルエンザウイルスへの抗体を持っているらしい。そうだとすれば、風邪ウイルスへの抗体を持っていたとしても何の不思議もない。私が最近風邪をひかないのは、必ずしも私が節制しているからではないのかもしれない。子供の頃から何度も風邪をひいては、その度にその時できた有用な抗体を身体の中に蓄えてきたからではないか。それが今になって効果を発揮し、どんな種類の風邪ウイルスが侵入してきても、一応は対応できるようになっているのではなかろうか。昨年の冬、同居している孫がインフルエンザに罹ったが、濃厚に接触していた私は運よく感染しなかった。もしかすると、私はインフルエンザに対しても抗体を持っているのかもしれない。

 「病(やまい)は気から」と言うが、もっと積極的に、病を気合で跳ね除けることもできるのかもしれない。しかし抗体があるからこそ、気合で跳ね除けることができるのであって、抗体なしで気合だけでウイルスに立ち向かっても到底勝目はないであろう。
 これから新型インフルエンザや季節性インフルエンザが流行る時期を迎える。気合だけでは乗り切れないであろうから、抗体のある人もない人も、早いうちにインフルエンザワクチンの接種を受けた方がよいと思うのである。■