素歩人徒然 盗電 いつでも充電、いつでも充電
素歩人徒然
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盗電


── いつでも充電、いつでも充電

 後期の授業が始まった。都心のキャンパスで担当している情報倫理に関する講義では、パソコン画面をスクリーン上に拡大表示するためのプロジェクター装置が、毎年何らかのトラブルを引き起こしている。今年はどうなるのか心配である。最初の授業の時ばかりでなく、毎回の授業で私は内心ハラハラさせられているからである。

 今年の授業では、幸いにも何事も起こらず機器は順調に動作した。ところが、授業の途中で突然電源が落ちてしまったのである。慌てて担当者を呼び、何とか修復してもらい再び授業を続けることができた。ブレーカーのスイッチが落ちていたのが原因とのことであった。
 しかし次の授業の時も、再び途中で突然電源が落ちてしまった。今度も設備担当者を呼び、同じように修復してもらうという手順が繰り返された。最初の時は、授業がそのまま続けられるかどうか心配だったので原因の追求の方には気が回らず、通電したので取りあえずそれで良しとしてしまった。しかし今度ばかりは、そのままにしてはいけないと思ったのである。そこで授業が終わってから、大学側に原因の徹底的な調査と、できれば教室を変更してほしい旨申し入れることにした。

 後日その調査結果が知らされた。その報告によると、問題の教室は隣りの教室と一体となって電源管理されており、設置されているAV機器の電気容量を満たすだけの十分な電力が供給されていることが確認された。しかし調査した電気技師の経験から、このようなケースは多くの場合学生達が教室のコンセントから自分の携帯電話やゲーム機などに充電しているのが原因で起こるのだという。

 俄かには信じがたい指摘ではあったが、冷静に考えるとこれが本当なのかもしれないと思うようになった。最近私の身の回りでも、暇さえあればケータイをコンセントにつないで充電している人の姿を見かけるようになっていたからである。「いつでも充電、いつでも充電、…」というわけである。

 街中や電車の中でケータイを夢中になって使っている人をよく見かけるが、一体彼らはどこで充電しているのだろうと、ふと思ったことがあった。もし授業中に充電できたとしたら、さぞ便利なことであろう。いや、授業中に充電するというよりも、充電中に時々授業を聞くというのが最近の流行りなのかもしれない。それを知らないのは、ケータイに呪縛されない生活を送っている私めのような人間だけなのではなかろうか。

 大学の施設内の電源コンセントから許可なく私用のケータイ機器に充電するという行為は、明らかに盗電である。“窓ガラス理論”(*)にしたがえば、このような不正行為を見逃すべきではない。しかし教育の場では、その犯人を捕まえることよりも、教室を変更してこの種のモラルに欠けた行為が行えないような環境にすることの方が穏当な解決策ではないかと思う。そこで私は、教室を代えてもらうことにしたのである。■

【注】(*)「窓ガラス理論」については、【近頃腹の立つこと】欄の「お説教」、または【素歩人徒然】欄の「またウイルスメール」を参照されたい。