度量衡のための新・接頭語について SI接頭語の覚え方 
素歩人徒然
(213)

度量衡のための新・接頭語について


── SI接頭語の覚え方

▼新聞の記事
 以前(2022-8-5) 朝日新聞の教育欄に“10の30乗 ルーキー「クエタ」”という記事が掲載された。読まれた方も多いと思う。数の桁を表す度量衡の単位(最近は“接頭語”と呼んでいる)として新しいものが近く追加されるそうで、その簡単な紹介記事であった。

 極端に大きな数、あるいは極端に小さな数を表現するには度量衡のための接頭語を使うと便利であることはよく知られている。私も仕事の関係で必要な知識であったから、以前からそのための接頭語については特別な関心を持っていた。

 私のホームページ上でもこのテーマを何回か取り上げている(*1)。新しい表現が正式に採用されれば、当然のことながら修正が必要になるだろうと思う。
【注】(*1)接頭語に関する記事
 (1)ソフトウェアと“K”── 計量単位について
   (初版 1995-10-23)1996-1-8 ソフトウェアの法則(39)
 (2)10進/2進・度量衡の接頭語 超極秘欄(19)
 (3)度量衡の単位 ── 度量衡の単位の覚え方
   2016-10-01 素歩人徒然(142)
 この接頭語の変化の歴史を振り返って見ると、最近の科学技術の劇的な進歩の様を実感することができる。教育の場で取り上げれば最高に意味のあるテーマになるだろうと兼ねてから関心を持っていた。
 特にコンピュータの分野では、“長さ”と“速さ”の値を表現する際に利用されてきた。たとえば、長さでは主メモリや外部記憶装置のメモリの大きさ(k, M, G, T....)を、速さでは、CPUの速さ、特定の命令の速さ(μ, n, p, )などでこれらの接頭語が利用されてきた。
 最近では2進数を扱う際にも必要となる接頭語が用意されているが、これはあまり普及してはいないようである。

 前述の新聞記事には、各接頭語が制定された時期を示す図が含まれているが、私の知っている制定年とは微妙に異なっているところがある。


図:SI接頭語の一覧
( 朝日新聞から引用 )

 「キロ、ヘクト、デカ、デシ、センチ、ミリ」という接頭語は、ずっと昔からあったものだから、委員会(*2)の場で1960年に制定されたと言うのはにわかには信じ難いことである。
 私の調査では1795年(*3)となっている。私が資料(1)を作った際にも(1995年頃のことですが)、制定された時期を事前に詳しく調べている。そのとき1795年と判断したのだが、今ではその出典がどこであったのか分からなくなってしまった。

 今回、改めて調べてみたが分からない。多分、キロの出典として容積の度量衡を表現する際に使われた「キログラムの定義」がその原点ではないかと思う(1795年と関連しているから)。
【注】(*2)委員会とは、国際度量衡総会の一組織である「国際度量衡委員会」のことである。

【注】(*3)キログラムの定義
 「1キログラムの当初の定義は「水1リットルの質量」であった。1795年の定義では、「大気圧下で氷の溶けつつある温度における水」となっていたが、その後、水の体積は温度に依存することが分かり、そのため、「最大密度における蒸留水1立方デシメートル(1リットル)の質量」と定義された。」
とある。
 したがって、ここでは私のあやふやな記憶のデータのままで話を進めることにしよう。

▼私の経験
 私と接頭語との出会いは、小学校時代(1947-1952)である。何年生のときだったかは覚えていないが、教師から「キロ、ヘクト・・・ミリ」という単位を、あの有名な覚え方とともに教えられたのである。1940年代のことであるから「接頭語」などと言う便利な用語は使われていなかったが、各接頭語を順番に並べて覚えるという“画期的な方法”を初めて知る機会となった。


覚え方
「キロキロとヘクトデカけたメートルがデシに追われてセンチミリミリ」

 それから数十年後、私は企業人(1938-)になってから「接頭語」としてその劇的な変化を自ら体験することになる。

(1)接頭語 tera, giga, mega, micro, nano, pico の出現
 最初は1960年に「テラ、ギガ、メガ」と「マイクロ、ナノ、ピコ」が追加された。

(2)接頭語 femto, atto の出現
 次が1964年に「フェムト、アト」が追加された。

(3)接頭語 exa, peta の出現
 そして、1975年になって「エクサ、ペタ」が追加された。

(4)接頭語 yotta, zetta, zepto, yocto の出現
 更に、1991年「ヨタ、ゼタ」と「ゼプト、ヨクト」が追加された。

 この時点で、私は「キロキロとヘクトデカけた…」に負けないような画期的な覚え方を作る必要があると考えるようになった。

 そこで思いついたのが第一版(1995)(以下に示す)である。

 その後、私は大学の教師を兼務するようになったので。画像表示ソフト(パワーポイント)を用いてこれを教材化し、学生たちに「接頭語の覚え方」を教えるようになっていた。今回の改変では、当時の資料(pptファイル)を利用して新しくpptxファイル形式で画像を作成した(以下の説明では、それを利用しています)。


接頭語の覚え方(初版 1995)

 読み方のコツについては、資料(1)を参照してください。

(5)接頭語 quetta, ronna, ronto, quecto の出現
 そして今回の2022年11月に「クエタ、ロナ」と「ロント、クエクト」が追加されることになった訳である(現時点ではまだ予定です 2022-11-18 正式決定されました! )。

 私が生まれてから(1)21年後(1960)、それから(2)4年後(1964)(3)11年後(1975)(4)16年後(1991)、更に(5)31年後(2022)と5回に渡って接頭語の変更が必要になったことになる。生涯で5回も更新される経験をしたというのは極めて稀なことではないかと思う。我々の世代は、それだけ変化の激しい時代を生きてきたことになるのだろう。

 何しろ我々の生きている宇宙の果てまでの距離は、約0.1ロナ(R)メートルと書くことができるという。また“プランク長”と呼ばれる現代物理学で扱える最小の長さは、約0.00001クエクト(q)メートルと書けるのだそうであるから、何か劇的な大発見でもない限り、当分の間は新しい接頭語が必要になることはあるまいと思う。

▼接頭語の覚え方
 そして、私は懲りもせずにまた「接頭語の覚え方」を見直すことにしたのである。

 新しい覚え方を身に付けるには、まず以下の「説明付き」の画面を利用するとよい。

●説明付きの画面の解説

接頭語の覚え方(説明付き)

 3つの段落に分けて解説します。

・段落1


 最初は「遅れたコロナで…」と始まりますが、思いっ切り訛って発音するのがコツです。「遅れた」は「おくた」という感じでくちびるを余り動かさずに発音します(余計なことですが、ヨタヨタした原因はコロナの感染によるものではなく、遅れたコロナワクチンを接種した結果、副反応でヨタヨタしているのです)。

 「大門爺(大文字)さん」は、接頭語の表記では記号は必ず「大文字」を用います。つづりの英字表現では「必ず(英小文字のエイ)aで終ります」という意味です。

・段落2


 これは昔から使われている表現ですから解説は不要でしょう。最近は知らない学生が多くなりました。

・段落3


 3行目までは今まで(初版 1995)と同じですから必要なら資料(1)で、章「◆接頭語の覚え方」を参照してください。

 最後は「フロントから奥へ行くと…」ですが、これも発音に気を付けて「おクエクト」と発音し「おクエクト」と聞こえるようになるまで練習します。これもくちびるを余り動かさずに発音します。

 最後の「必ずoで終ります」とは、接頭語の表記では記号は必ず「小文字」でフルの英字表現では「必ず(英小文字のオー)oで終ります」という意味です。


●説明付き2の画面の解説

接頭語の覚え方(説明付き2)

 前出の説明付き画像による発音練習に慣れてくると、説明的部分がかえって邪魔になります。それらを出来るだけ取り除いて簡略化したものです。発音に注意すべき2カ所についてのみ説明文を残しました。

●説明付き3の画面の解説

接頭語の覚え方(説明付き3)

 2カ所の説明文を同様に残したものです。使いやすい方を利用してください。

●最終版の画面
接頭語の覚え方(最終版 2022)


 残った説明部分も取り除き、これが最終版となります。

▼まとめ
SI接頭語の列をしっかりと記憶するには、出だしの言葉を忘れないようにする必要があります。「遅れたコロナで」から始まり「奥に行くと終り」で締めくくる。これを忘れないようにしてください。
 定義規則が規則的ですから順番さえ思い出せれば各記号の意味する値(10の何乗か)はすぐ類推することができます。したがって順番を正確に覚えることが大切です。慣れてくると至極簡単であることが分かります。

なお、ここで作成したpptxファイルは、教育の場で利用したい人には公開します。必要なら申し出てください。

SI接頭語の命名では、慣例となっている命名法があり、既存の用語と重複しないように注意深く決められているようです。今回の変更で使えるアルファベットの英字(1文字)はすべて使い切ってしまったそうです。各接頭語の正式な名称のつづりも重複が生じないよう語尾の文字群を厳しく制限しています。

ただし「キロ … ミリ」は慣例となっている命名法とは異なります。明らかに k, h, da, d, c, m は異質ですね。他のグループで決定された接頭語のようです。